複雑・ファジー小説

Re: ライオンさんとぼくのお話 ( No.36 )
日時: 2014/05/17 12:32
名前: モンブラン博士 (ID: EhAHi04g)

第28話

それから数日後、私の親友であるトリニティが訪ねてきた。

彼は腰を下ろすなり、ため息を吐きながら言った。

「ライオネル、私には彼の心を救うことができなかもしれない」

弱気な彼の発言に、私はこれはただごとではないと身構えた。

なにしろ彼は、子どもたちの教育や心のケアに関しては相当な実力を持つベテランだからだ。

そんな彼が「救えないかも」と自信なさげな発言をするということは、あの星野くんという少年はよほどつらい過去を送ってきたのだろう。

私と彼はしばらく無言を貫いていたが、やっと彼が話始めた。

「……彼は今、孤児だ。両親は彼が幼いころに交通事故で亡くなった。親戚の家に引き取られたらしいが、そこで身体的、精神的、性的な虐待を毎日のように繰り返されたらしい。
その後、家の火事で親戚も亡くなり、児童養護施設に引き取られたが、そこでは過酷ないじめを受けたそうでな……
そんなある日、自分を天使だということに覚醒したらしく、それと同時に(これは私の推測にすぎないが)感情が麻痺してしまったのだろう。そして施設を出て、家を借り生活をしている」

ここでふと、疑問が生じた。

一介の中学生である彼がどうやって収入を稼いでいるのかを。

すると彼は私の考えを見透かしたかのように答えた。

「彼は容姿がとても可愛らしい。だから、性欲に飢えている女性や男性を家の中へ招待し、自分の体を売って生計を立てているんだ」

この衝撃の答えは私を動揺させるのに、十分すぎるものだった。

「バ、バカな……!トリニティ、それは冗談だろう!?」

だが彼は真面目な瞳で、

「……残念ながら本当だ。私も信じたくはないのだが」

な、なんということだ……!

私たちふたりに再び長い沈黙が流れることになった。