複雑・ファジー小説

Re: Romancing Adventure ( No.1 )
日時: 2014/05/18 00:00
名前: 牡丹餅 (ID: gOBbXtG8)

 とある町の宿酒場にて。
 リオンは飾りも無くつまらない部屋で、休息を取りながら冒険日誌を書いていた。
 その日の終わりに日誌を書くのは、リオンだけでなく冒険家全ての日課、否、義務ともいえよう。
 折角冒険をしているというのに、その行動履歴を書き記さないのでは冒険の追憶が出来なくなってしまう。
 それは決してあってはならないことだ。

 丁度リオンが日誌を書き終えて背伸びをしていた頃、風呂から戻ったらしいイデアが部屋にやってきた。

「日誌、書き終わった?」
「あ、うん。丁度書き終えたところだよ」

 そう言ってリオンは日誌を手に取ると、丁寧に自分の鞄へとしまい込んだ。
 一方でイデアはさっさとベッドへ向かい、今日の疲れを全て吹き飛ばすかのように乱暴に倒れこんだ。
 ぼすっという音の後にリオンも彼女に続き、自分のベッドへと潜り込む。

「じゃあ、電気消すよ」
「うん、お休みイデア」
「おやすみなさい、リオン」

 イデアにより部屋は消灯され、一日は終了した。


  ◇ ◇ ◇


 消灯から約1時間が経過した頃。
 リオンはもう完全に夢の世界なのか、すやすやと寝息を立てて眠っている。
 だがイデアは、眠れないままボンヤリと星空を眺めていた。

 ふと、視線をリオンに向ける。
 丁度彼が寝返りを打ち、顔がイデア側に向いた。

(そういえばリオンの顔、まだちゃんと見たことなかったかも……)

 幼馴染だというのに、全てをまだ認識できていないようだ。
 イデアはベッドから降りると、反対側にあるベッドまで行ってしゃがみ、リオンの顔をまじまじと見つめ始めた。
 よく見ればかなり美形で、顔の一つ一つの部位が整っている。顔だけ見れば宛ら女性のようだ。

(つくづく思ってたけど、何か可愛いんだよね……)

 頬に触れてみる。すべすべでふんわりした感触が返ってきた。
 今度は髪の毛を一房取ってみる。かなりさらさらで、まるでケアしているかのようだ。
 イデアはここで、何か思いついたような悪戯っぽい笑みを浮かべた。

(今度、女装させてみようかな)

 次いで彼女は、これぞ正に妙案、といった風な表情を浮かべ、やがて眠りにつくのだった。


  ◇ ◇ ◇


 イデアがそんなことを考えているとも知らず、リオンは幼い頃の記憶を夢として見ていた。
 冒険者だった父から聞かされた話。擽られた、父親譲りの秘めたる冒険心。頑張って世界の歴史と地理を勉強したあの時。
 全てが懐かしかった。旅に出ようと決意したとき、イデアや母親、親戚の人々と喧嘩したことも。

 特にイデアとの喧嘩は凄まじかった。
 冒険家になりたいと主張するリオン。危ないからやめろと主張するイデア。
 二つの意見は対立したまま、収まることはなかった。

『だから僕は冒険家になりたいんだ! 君には関係ない、ほっといてよ!』
『ほっとけないよ! だって危ないじゃん! 死んじゃったらどうするの!? みんな悲しむんだよ!?』

 それはもう酷いものだった。
 当時二人の力関係は概ね同じくらいだったので、すぐ暴力沙汰へと発展していたのだ。
 たまに皿が割れたりなど、器物を破損することさえもあった。

 だがこの時のリオンは、イデアがどれだけ自分を大切に思ってくれているのか、痛いほどよく分かっていた。
 同じくイデアも、リオンの冒険家になりたいという気持ちはしっかりと理解できていた。
 だからこそ、喧嘩が収まる兆しは見えなかった。これはあくまでも、お互いがお互いを思っての喧嘩だったのだ。
 これほど憎たらしいものは、きっとこの世には二つと無いのではないか。

 リオンもイデアも、時折当時を思い出すことがある。
 その時の二人の心境は、とても一言では言い表せないような複雑なものとなっている。
 そして、決まって同じ事を考えるのだ。果たして、このような結果は正解だったのか、と。
 結局はイデアがリオンの旅路に同行するということで丸く収まったが、本当にこれでよかったのだろうか、と。

 この事に関してはなるべく考えたくない二人なので、誰にも話さずに胸の奥底にしまっているのが現状ではあるが。