複雑・ファジー小説
- Re: Lost Witch【鋼の意志】 ( No.1 )
- 日時: 2014/05/18 15:58
- 名前: Ⅷ ◆O.bUH3mC.E (ID: Z5O3OKTP)
Lost
かつて……ただ唯一の存在、魔女が、この世界にはいた。
魔女は、魔法という力をつかい、世界を守るため、世界を安寧に導くため、平和に導くために、その力を人類のために振るい、おおきく貢献したといわれている。
水のない大地に水を、枯れ果てた大地に生命を、飢えた人々に食糧を、そして、それを育てられるだけの環境を、魔法で生み出し、世界は、人々は、その魔女を、崇め奉り、英雄だと、神の使いだと、ほめたたえた。
だが———一部だけが、その魔女の存在を認めなかった。
もともと栄えていたある国の人々は、その魔女は、やがて人類に害をなす存在だと謳った。その言葉が、その問いかけが、世界の人々に、魔女にたいする不信感を植え付け、魔女は、追放された。
たった一人の魔女は、世界のために働き、世界の何千何万何億の人々のために働き、その人々のために平和をつくりあげた。だが、たった一人の魔女に対し、人々は、何千何万何億の人々は、感謝を忘れ、恩恵を忘れ、なにもかもを忘れ、その魔女の力に、おびえ始めた。
畏怖の目をむけられ、阻害され、孤独となった魔女は、人々を恨み始めた。なぜ、自分がこんな扱いをうけなければならないのかと、なぜ、人々のために働いたというのに、自分は孤独なのだろうかと、自分は間違ったことをしただろうか……と。
魔女は泣いた。己の力を悔いた。己の力があるから、己が孤独になるのだと。こんな力、はじめからなければよかったのだと。
だが……人々は、その魔女を孤独に追いつめたその国の人々は、魔女をさらに追い詰めるべく……魔女をこの世界から排除するべく、うごき始めた。
魔女は拘束それ、人々の前に晒し者にされ、死刑を宣告された。見せしめとして、世界を恐怖に陥れたその罰として、魔女は、殺されることとなった。
魔女は怒り狂った。己のすべての力をつかって復讐してやると、己の怒りをこの世界に残してやると、己の不幸をこの世界に残してやると、二つの魔法をつかった。
一つは———異形の化け物を生み出す魔法。のちに『イマジン』と呼ばれるようになる、人類を脅かす、魔力を帯びた怪物。
そしてもう一つが、自身と同じように、人類に畏怖の目を向けられる存在、魔法を使うことができる存在……『魔法使い』を、呪いとして、人々に植え付け、残した。
世界に自分のように不幸なものが現れることを望んで、自身の怒りが、世界を滅ぼすことを望んで———その魔女は、消えた。