複雑・ファジー小説

Re: レイの旅-SEED- ( No.3 )
日時: 2014/06/08 17:31
名前: 雪うさぎ ◆rsq0lAj0.g (ID: gOBbXtG8)
参照: すみません、またトリップ付け忘れました。

 やがて表情が表より消え去ったレイは、旅支度を終えて外に出ていた。
 この焼けた故郷に別れを告げ、新たな住居探しと観光を兼ねて旅に出るためだ。

 村から旅立って数日後の事。
 ラナトル共和国の城下町に向かう途中で回り道し、レイは大型魔獣の出やすい危険な街道を歩いていた。
 何故回り道をしたのか。理由はというと、旅に早く慣れる為。故に、あえて危険な道を通るのだ。

 その街道は左右に迷いの樹海が広がっており、そのうちここだけは日の光が差し込んでいる。
 因みに迷いの樹海とは、一歩足を踏み入れると羅針盤が狂うとされ、更には危険な魔獣も数多潜んでいるという死の森のこと。
 「迷いの樹海を抜ける」という言葉は不可能の代名詞ともされており、熟練の冒険者でも命を落としやすい。
 その死亡率は95パーセント。その証拠に、樹海の中では人の屍がいくつも存在している。
 中には死体のまま蠢く屍もある。俗に言う「ゾンビ」という奴だ。

 そんな樹海を左右に控えながら、レイは平然とピクニック気分で道を歩いている。
 この道を歩き始めてから感じている、魔獣より放たれるいくつもの殺意さえも気にしないまま。
 別段彼は、この樹海の事を知らないわけではない。どちらかというと、一般人よりはよく知っているほうである。

「——」

 だからだろうか。
 魔獣が飛び出て襲い掛かってきても、冷静な対応を取ることができるのは。
 現在道を行くレイの後には、魔獣の死体がこれでもかというほど転がっている。
 中には大型魔獣も含まれており、知恵は人に劣っても力は数十倍ある〈ベヒモス〉が一番多い。
 右手に棍棒を持ち、腰に魔獣の皮を巻きつけた紫色の巨人〈ベヒモス〉たち。
 彼らの腹は大きな円形の穴が穿たれている——というより刃で丸く切り取られた——痕跡があり、内臓を撒いている。

 そうして日も暮れかけ、道もそろそろ抜けれるかと思った頃。
 レイは今までになかった強烈な殺意を感じて動きを止め、臨戦態勢になりつつ周囲を模索し始めた。
 常に殺意は何処からでも感じているが、今は特に目の前から強く、ただ単純なそれを感じている。
 この目の先に一体何がある。と思っていたら突然、すぐ目の前で闇魔力の爆発が起こった。
 突然の出来事に驚いたレイは咄嗟に後ろに飛んで避けたが、爆風は彼を巻き込もうとしてどんどん肥大化していく。
 このままでは闇に飲まれてしまう。

「はぁ!」

 避けようもないそれにレイは神速の居合い切りを放ち、光の魔力を乗せた真空刃を前方に飛ばした。
 刹那、がちん、という何ともいえない音がして、数メートル先で真空刃が消え去る。
 やがて闇の魔力は相殺され、彼の前から障害物は消え去った。あくまで、見た限りでは。
 レイは警戒を解かなかった。殺意は消えたが、代わりに何かの存在感を感じ取れたのだ。

「あら、なかなかやるわね」

 すると、そんな艶めかしい声と共に前方に巨大な龍が現れた。
 どうやら、その巨龍は透明化していたらしい。水が流れるようなエフェクトと共に現れたのが何よりの証拠だ。
 少しだけ緑がかった紺色の龍鱗が、太陽の光に反射して鈍く輝くその巨龍。
 背中に二対の翼を持ち、人のような姿勢で二足歩行状態でただレイを見据えて立っている。

 近くには、レイと同じくらいの年頃の少女が立っていた。
 黒いワンピースに灰色の胸鎧、赤い瞳と、長い水色の髪が印象的である。
 先ほどの声の持ち主でもある彼女は、まるで従えているかのように巨龍に話しかける。

「リン、もう大丈夫よ」
『了解です。では、私はこれで』

 リンと呼ばれたその龍は念話で少女とコンタクトを取ると、大きな翼をはためかせて大空へと舞い上がった。
 人の数十倍はある巨体だったが、ものの数秒でその身体は豆粒程度に小さくなっていった。
 かなり飛行能力に長けているらしい。

 残された2人。レイが警戒心を露にしていると、少女は顔色を一切窺わせないまま彼に近付いた。

「そんなに警戒しないで」

 続いて発された一言に、レイは思わずころびそうになった。
 先ほどの攻撃を手向けたのはお前だろう。そう言いたくて仕方ないが、今はそんなことを言っている場合ではない。
 そして、警戒心も解いている場合でもない。

「誰だ?」
「愚問ね。私のことを聞くなんて」
「いいから答えろ」
「……はやとちり」

 レイに負けず劣らず無表情な少女は、渋々〈モード〉と名乗った。
 名乗られたら名乗り返すのが礼儀なので、一応レイも名前だけ名乗っておくことにする。特に理由はないが、苗字は伏せた。
 少女〈モード〉は、半ば強制された自己紹介を続ける。

「あの巨大な龍の名前がリントヴルム。って言ったら分かる?」
「リントヴルム?」

 レイはその名を知っていた。