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複雑・ファジー小説
- Re: 虚空のシェリア ( No.1 )
- 日時: 2014/06/07 21:03
- 名前: 煙草 (ID: gOBbXtG8)
青と緑を基調とした民族衣装に身を包み、一人カルマ高原に立つ少女〈シェリア〉がいた。
焦点は特に定まっておらず、その視線はあえて言うなら、青空を流れる複数の雲に向いている。
一切の表情を窺わせない彼女。何を考えているのか、それは本人と仏のみぞ知る。
実際は特に何も考えていないのだが。
(……気持ちいい)
何も考えずに、カルマ高原を吹く風に吹かれるのが好きだった。
それは幼い頃からずっと同じであり、毎日僅かに違ってくる風を感じるのが一種の趣味でもあった。
元々カルマ高原には退屈凌ぎというものがあまり存在しないので、このような趣味が出来上がっても別段おかしく無いのだが。
「おーいシェリアー!」
どこからか、彼女の名を呼ぶ声がする。
周囲を模索すると、よく知っている少年が走ってくるのが見えた。
肌の色がまるで正反対だが、服装が彼女のそれと殆ど同じなところを見ると、どうやら同一の民族のようだ。
暫くもしないうちにシェリアの元へと走ってきた少年〈レクト〉
体力があるのか、豆粒のように見える集落から走ってきても息を切らせていない。
「何処行ってたんだよ。長老が呼んでるぞ」
「……何で?」
「何でって……今日は狩りの特訓日だぞ」
「……ふうん」
ライモンディ一族の子供は、将来立派な大人になるために狩りの練習を積み重ねる。
今日はその特訓日だったのだが、どうやらシェリアは忘れていたらしい。
「早く行こう。また怒られるぞ」
「……別に、怒られても何てこと無い」
「そ、そういう問題じゃないっての……」
苦笑するレクト。
手を引かれて走るも無表情なシェリアを傍目に、彼は集落へと急いだ。
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