複雑・ファジー小説

Re: 虚空のシェリア ( No.3 )
日時: 2014/08/31 17:39
名前: 煙草 (ID: lY3yMPJo)

 その後はレクトについていこうとしたシェリアだったが、如何にせん行動速度が彼と彼女とでは明らかに違うので、彼女はさっさと先を行く彼に距離を離され、終いには姿を見失ってしまった。
 それでも実地訓練の場所はシェリア自身が分かっているので、彼女はのんびりと目的地へ向かうこととする。しかし。

『武器、忘れた……』

 レクトに慌しく連れ回された故、シェリアは自分の獲物を家に置いたまま集落を後にしていたのだ。
 獲物の銘柄はパルチザン。槍と斧が一体化したことにより殺傷能力が増しており、それでいて金属にしては恐ろしく軽いという、ライモンディ一族に伝わる由緒正しき武具の名である。
 しかし、そんなパルチザンを使用している当の彼女が、そのような伝統ある武具だと知っているはずも無く。ただそこにあるから、という理由で今まで使ってきた。それ以外に理由などない。
 因みにレクトは武器を持たない。彼の武器は格闘技であり、獣を目の前にしても勇猛果敢に殴りこみに行く。

「武器、ないの?」
「……」

 気付けば、年齢の割に小柄なシェリア以上に小柄な少年が隣を歩いていた。
 その少年は自分の獲物である拳銃を持て余しながら、小首を傾げながらシェリアを見上げている。

「……何時からいたの、歩夢」
「いつからって、酷いなぁシェリア。集落出てから、ずっと一緒だったよ?」

 歩夢(あゆむ)と呼ばれた幼い少年は、膨れっ面でシェリアを睨む。
 そんな姿が、まだまだ可愛い。睨まれたシェリアは、内心そう思っていた。

 歩夢は極東の島国"出雲神州"の生まれであり、ライモンディ一族ではない。では何故ここにいるのかというと、単に家出ついでの旅をしていた際に、この地に足を踏み入れて居着いただけである。
 なので彼の肌はシェリアと同じで白く、髪も目も黒一色であり、村の中でも一際浮いている存在といえる。しかし、居着いてかれこれ3ヶ月。最近ようやく皆と馴染み、正式にライモンディの集落の住人になったのだという。

「……ふーん」

 そんな歩夢を一瞥しただけで、シェリアは再び目線を正面へと戻す。
 話をはぐらかされた気がして、歩夢は少し眉根を顰めた。

「それで、武器どうするのさ? まだ時間あるけど、取りに行く?」
「……別にいい。魔法で十分」
「そ、そうなんだ」

 魔法。それは、扱い方次第では何よりも強力な武器となりえる代物である。
 ただし、魔法は世界中の人口でも1割以下の人間しか使うことが出来ない上、その大半は"エルフ"と呼ばれる種族が、一部はライモンディ一族が占めている。よって、魔法という存在は正式に確立されてはいるのだが、実際に使用できる人物は前途の通り少ないために世間からはかなり珍しがられる。
 そして理論上では、魔法に不可能なことはない。鍛錬を積むことによって、魔法は何処までも進化する。

「そっか。シェリアはライモンディ一族だから、魔法なんてお茶の子さいさいって訳なんだね」
「……」

 お茶の子さいさい。その言葉は出雲神州のものであって、他国の人間には通じないことが多い。ただ、シェリアはその言葉の意味を知っていた。それでも彼女は黙っている。理由は単純にして明快。返事が面倒なだけである。

「あ、もしかして今の言葉の意味分からなかった?」
「……分かってる」
「じゃあ何か返事してよ。つまんないじゃん」

 会話を要求する歩夢だが、シェリアは依然、黙ったままだ。
 結局その後2人は、終始無言で目的地まで到着したそうだ。