複雑・ファジー小説
- Re: 虚空のシェリア ( No.5 )
- 日時: 2014/09/07 14:45
- 名前: 煙草 (ID: lY3yMPJo)
迷いの森の実態は、噂に違わぬそれであった。
足を踏み入れ、獣道を進むこと数十メートル。この時点で既に、さっきまで見えていたはずの入り口は姿を消した。出入り口が姿を消したら最後、視界に映るものは鬱蒼とした森のみとなる。
あと精々映るのは、風雨に晒された数多の骸。骸の数はそれの数だけ、無謀にもこの森に挑んで果てた冒険者がいる。その証拠でもあろう。シェリアはそれをみて、何ともいえない気分になった。まるで呪われた道を歩んでいるかのようで。
そしてこの森には当然、強力な獣達が徘徊している。特にアラクネが従えるものが多く、一流の戦士でも手古摺る獣が、この森に住む生物の大半の割合を占めている。つい先日も、偶然ここから出てきた獣にライモンディの戦士が力尽きたところだ。
挙句、その数も尋常ではない。ここは本来であれば一族の掟として、大した獲物を持ち合わせていない、しかも仮にも未成年の少女であるシェリアが近付いていい場所ではないのだ。
しかし、そんな掟さえも彼女は破り、自分の意思で中に入ると決めた。大切な人が、この先にいるかもしれないのだ。そんな現実を目の当たりにして動かないほど、彼女も冷徹ではない。
数分後。案の定、シェリアの前に獣が現れた。
猪に似た——というよりも完全に猪であるそれは、鼻息を荒くして彼女に突進せんと身構えている。
『……めんどくさいなぁ』
シェリアはそう思いつつも右手を掌を握り、左半身を猪のほうへと向け、身体を影にして手に炎を宿らせる。
刹那、猪は突進を仕掛けた。
しかしシェリアは落ち着いたまま、右手をサッと振り上げた。
同時に彼女は肉を斬る感覚と、顔にかかる寸前だった炎の熱、何かが焦げるような異臭を感じる。
ぎゃふん、とでもいうような女々しい声と共に、猪は口元に生えた牙ごと口と鼻を斬られて退いた。
シェリアの右手には、依然炎が宿っている。その小さく白い手中には、黒くすすけたようなフォークが。
年端もいかないか弱き少女でも、本来ならば出来ずとも、こうして猛獣の1匹や2匹ならば軽く退けさせることが出来る——これこそが魔法の力であり、魔法の成せる技である。
シェリアが使ったのは、武具を具現化させることが出来る魔法。彼女なりの独創的な工夫が凝らされており、伸縮自在のフォークを具現化することで、持ち運びに手間もかからなければ遠くの相手に様々な攻撃を仕掛けることが出来る。
猪が力尽きてから周囲の安全を確認できたシェリアは、役目を終えた右手の黒いフォークを手放す。手から離れた瞬間、フォークはただの炎の塊となって虚空へと消える。
時間を取られた気がして、彼女は探索の足を速めた。
