複雑・ファジー小説
- Re: 虚空のシェリア ( No.6 )
- 日時: 2014/09/14 00:57
- 名前: 煙草 (ID: lY3yMPJo)
- 参照: ※下ネタ注意
それからというもの、シェリアは疾風の如く樹海を突き進んだ。
獣道は彼女の手により、人が通れるような普通の道に無理矢理開拓されていて、襲い来る獣は全て彼女の魔法で焼け焦げている。正に、彼女が通った後に道が出来ているようなものだ。
「やれやれ。そなたは自然に対して、もう少し優しく接せれんのか?」
しかし邪魔者という存在は、何時になっても出てこないとは限らないのが世の常なのである。
「誰」
シェリアはその一言と共に、口調にしては幼い声色である少女の声の発生源——もとい、その声の持ち主を探し始めた。
念のためにと彼女の右手には、件の魔法によって出来上がったフォークが握り締められている。というのも今完成させたばかりの代物であって、威力などに変わりはないが、先ほどまで使っていたものとは違う。
「こっちじゃこっちじゃ、ライモンディの小娘よ」
ガサッと草木を踏みしめる足音がシェリアの背後から響いて、彼女の鼓膜をしっかりと揺らす。
背後を振り返るシェリア。彼女の瞳に映ったのは、肩甲骨辺りまで伸びた若草色の髪と同色の瞳を持ち、右手に身の丈余りの木製の杖を携え、大きな麦藁帽子を被った少女の姿であった。先ほどの声の持ち主はこの少女なのだろう。
そしてその小柄さ加減と言えばシェリアと同じくらいで、顔立ちも彼女とほぼ同年代である。だがシェリアは、それ以前に気になる事があった。何かというと、彼女が着ている服である。
「誰。まず、何その恰好」
「うん? これか? これはだな、自然の恵みを象徴しておるのじゃ!」
似合っとるじゃろ。そう言いつつ、少女はその場でくるりとターンしてみせる。
一応首肯したシェリアだが、そもそもその少女の恰好はと言えば、似合う似合わない以前の問題があった。
まずその服の素材だが、明らかに布ではない。草木の葉や蔓を上手い具合に編みこんで作られた、とても服とは呼べない代物なのである。それに加えて肌着もなしに直接着ている所為か、時折見えてはならない筈である身体の部位が、一部見え隠れしている。
そして、最大の問題は形状。早い話が、ブラジャーとパンツ。この2つの下着だけなのである。
申し訳程度に、同じく草木の葉や蔓で作られた腕輪とアンクレットが装備されているが、言ってしまえばそれだけだ。精々、靴に似た履物だけ。それ以外に肌を隠す要因となりえるものが一切ない。
「でもその前に、肌をもっと隠すべき」
露出を気にするシェリアにとって、その少女の恰好はありえないものであった。
女同士とはいえ、シェリアは少しだけ頬を赤らめている。もし自分が同じ恰好だったら、と想像してしまったのも原因かもしれない。だがそれよりも、ほぼ裸にも等しい恰好をしているその少女が目の前にいることが一番の問題だろう。
そうやって反論するシェリアを見て、少女は1つ溜息をつくと、若干眼を細めて彼女を見据える。
「別に、そなたが気にすることではなかろう? わしはもう処女でないが故、誰に犯されても文句は言わん。むしろ犯してほしいところじゃの。性欲はたとえ女でも、抑え切れんものは抑え切れん」
「……そういう問題じゃ、ないと思う」
そしてその見た目で処女じゃないのか。シェリアは個人的に一番そこが気になった。
幸いなのは、今この場にいるのが女性だけということだろう。男性がいたら、それこそ目の毒というものである。
「まあ、本当の理由は別にあるのじゃがな」
「……」
だったら答えろと言わんばかりに、シェリアは沈黙と視線を以って少女に無言で訴える。
少女は1つ苦笑紛れに笑うと、だったら名を名乗った方が早いかもしれん、といってその場に直った。
そうして次の瞬間、シェリアは数秒の間、思考を止める羽目に至った。何故なら————
「わしの名はナチュレ……とまで言えば、ライモンディ一族なら大方分かるじゃろ?」
少女の口から、このカルマ高原に住むとされる自然界の神"ナチュレ"の名が零れたのだから。