複雑・ファジー小説

Re: 虚空のシェリア ( No.9 )
日時: 2014/09/20 09:54
名前: 煙草 (ID: nWEjYf1F)

 戦士達が森へと雪崩れ込んできたその一方で、シェリアはナチュレと名乗った少女により1人で静かに衝撃を受けていた。
 数秒の間思考が止まり、ナチュレが発した名前の意味を理解するのにさらに数秒かかる。総じて10秒ほどの間を以って、シェリアはようやく我に返る。今目の前にいる人物がどういった存在なのか、それを理解できるに至ってから。

「自然神ナチュレ」
「それじゃ。全く、そなたも馬鹿よのう。わしが何者かを理解するのに、それほど長い時を必要とするのかの?」
「別に」

 自分で言うのもなんだが、私は馬鹿ではない。シェリアは密かに心の中で、ナチュレに対してそう言っておいた。
 そもそも、どれほど賢く頭脳明晰で冷静な人でも、事実上今まで人前に姿を見せなかった神が、何の突拍子も無く目の前に現れたら誰だって思考を止めてしまうことだろう。
 ましてや今シェリアが相対しているのは、今まで語り語られてきた伝承にある自然神とは程遠い容姿の少女。突然ナチュレだと名乗られても、いきなりは信用できない。出来るはずがない。もし出来たならそれは、よほどのお人好しであり、決して人を信じて疑わない人だと言える。
 そして、シェリアは生憎、そこまで人を信用する方ではない。どちらかというと人間不信だ。

「まあ何にせよ、そなたがこの先へ進むというのなら、わしも同行するとしよう」
「何故」

 何故と訊いたシェリアを見て、ナチュレは思わず「はぁ?」と零してしまった。
 それを聞いて、シェリアは僅かに眉根を顰めた。
 たとえ相手が自然の神であっても、彼女にとって同行人という存在は邪魔者以外の何者でもない。ましてや、神といってもこの信憑性の低い少女。下手したら足手まといになりかねない。

「あのなぁ、ここが何処だか、そなたは知ってて足を踏み入れているのか?」
「知ってる。迷いの森」
「知ってて何故、そなたは1人でここまで来たのじゃ。この森の危険性、ライモンディ一族なら誰でも知っていようぞ」

 ナチュレは呆れた表情でシェリアを見ている。

「誰かいたら足手纏い。それに、アラクネからみんなを守らなきゃいけないから」
「アラクネ……じゃと?」

 しかしその表情も、アラクネという単語を聞くまでであった。

「あ、アラクネの居場所を知っておるのか!? 素直に答えろ!」

 突然血相変えて、自分より身長の大きなシェリアの胸倉を掴むナチュレ。
 その変わり様にシェリアは一瞬だけ驚いたが、直ぐにいつもの調子を取り戻し、ナチュレの手を離す。

「ん。アラクネが私の友達を襲った。だから、ここにいるって睨んで来た」
「だったら尚更同行を求める! アラクネなど、放って置けばいずれ世界が終わるぞ!」
「そんな現実味の無い」
「と、とにかくアラクネが生きているのであれば、放っておくわけにはいかんのじゃ!」

 ナチュレはどうしてもついて来るつもりらしく、シェリアは渋々同行を許可した。
 だが、何故だろうか。アラクネという単語を聞いた途端、こんなにも慌て始めたのは。
 やはり、今目の前で先を急ごうとしているこの少女が正真正銘のナチュレなのだろうか。

 何れにせよ、自分もこの森の奥へと足を運ぶ必要がある。
 シェリアもナチュレに続いた。