複雑・ファジー小説
- Re: 常闇の魔法青年-Twilight of Anima- ( No.1 )
- 日時: 2014/06/28 16:47
- 名前: 紅 (ID: gOBbXtG8)
- 参照: プロローグ〜刻は来た〜
「んじゃー、また明日なー!」
「あぁ、じゃあな」
夕暮れ時の放課後。
部活動の掛け声が響く中で、校門付近で〈千影淳也〉は、今日も無事に1日を終えたと思いながら友達と別れていた。
手を振りながら自分の帰路とは反対側に行く悪友を、彼はただ手をあげるだけで応えてさっさと帰路についた。
純也はこの頃、毎日が退屈だと思っていた。
何もないのが一番平和で良いんじゃないかと思う一方で、もっと毎日に刺激が欲しいと思うところもあるのだ。
面倒事は嫌いだが、退屈なのは更に嫌い。それが彼の性分なのである。
どれもこれも何れ、高校を卒業して大学に進学すれば変わるのだろう。そうやって言い聞かせながら毎日を過ごしてきた。
(あー、つまんね)
特にすることも無く河原で寝転がって、日が暮れたことで見え始めた星空を眺めていたとき。
近くで突然規則正しい足音が響き始め、その音は段々と大きくなり、彼のすぐ近くで足音は止まった。
右手側から人の気配を感じた淳也。誰か自分に用事でもあるのかと思い、面倒ながらも右手側を見上げた。
そこには、鮮やかな銀髪のロングヘアが映える少女が立っていた。
睨み付けるような金の瞳を淳也に向け、何か重要な情報を伝えにきたような表情を浮かべている。
見た目の年齢は彼と然程変わりない。
「——何だ」
見上げて目を合わせても一向に口を開かない少女に痺れを切らし、淳也が最初に口を開いた。
「遂に、この時が来たわ」
「——は?」
そうして発された不可解な言葉を耳にして、淳也は渋面で聞き返した。
一方で少女は、私についてきてと彼に一言だけ言って踵を返し、さっさとその場を後にしようとした。
歩くペースが思った以上に早い。彼は一瞬焦り、少し慌てて付いていく。
「!?」
数十メートルほどついていくと、突然少女と淳也の体が赤い光に包まれた。
気付けば足元には魔方陣のようなものが展開されており、身体を包む赤い光を放っていた。
咄嗟に淳也はその場から飛び退こうとしたが、足は何かに拘束されたように全く動かない。
「おい、何をした?」
「ちょっとは落ち着きなさい」
『——ちっ、打つ手がない』
このままではされるがままだ。
仕方ないので淳也は、黒く輝く粒子を右手に集め、模られて具現化された青紫の細い柄を引っ掴んだ。
鎌だ。その大きさは彼の身の丈に余り、禍々しいオーラを放ちながら、まるで生きているかのように脈動している。
彼は世間では信じられていない魔法を使うことができる1人で、死や血を司る闇の元素を操れる。
出来上がった右手の鎌はこれにより作られたものであり、普通は人前では使えないような力である。
だが、今自分は魔法に似たようなものの所為でこの場から身動きを取れない。故に、やむを得ず魔法を使ったのだ。
彼は出来上がった鎌を振りかざした。
だがそれは、同じように光の粒子を集めて作り出された少女の小太刀によって止められた。
「止めた……? しかも今のは……」
「信じられないかしら? こんなにも身近な場所で、同じ魔法使いを目撃できたことに」
少女は妖しい笑みさえ浮かべている。
恐らくは相当な使い手なのだろうが、それでも地力的にはこちらの方が上手なはずだ。
そう踏んだ淳也は少女の小太刀を振り払い、闇のエネルギーを足元に集中させて魔方陣を破壊しようとした。
だがそれも、少女の放つ光のエネルギーに相殺される。
「光と闇は相容れない。お互いが弱点であり、有利なのよ。この意味が分かるかしら?」
「っ……」
これ以上、何をやっても恐らく無駄だろう。
淳也は大人しく抵抗することを止め、右手の鎌を闇に還した。
「それでいいのよ」
少女も小太刀を光の粒子へと還す。
淳也はそれでも警戒心は解かず、少女の瞳を睨んだ。
それを少女は、物騒なものでも見るかのような目線で睨み返す。
「一体、お前は何がしたいんだ?」
「大丈夫よ、貴方に危害は加えないわ。ほら、もうすぐ楽になれる……」
「は? う、うわあぁあ!」
少女が目を細めて明後日の方向を向いたのとほぼ同時刻、不意に魔方陣の輝きが増して視界が眩んだ。