複雑・ファジー小説
- Re: 常闇の魔法青年-Twilight of Anima-キャラ求 ( No.10 )
- 日時: 2014/06/28 16:53
- 名前: 紅 (ID: gOBbXtG8)
- 参照: 三話〜旅支度〜
「——ふぅ」
その後、渡された5万円を持て余す淳也は商店街で困っていた。
旅など碌にしたことがなければ、本やゲームなどでこういった旅がどのようなものかを知っているわけでもない。
よって彼が何に困っているかと言えば、旅支度に何を準備すれば良いのかに困っているのであった。
『あー……傷薬とかいるの……か……?』
「傷薬はいらないよ?」
「っ!?」
不意に響いた男子の声が、淳也の鼓膜を揺らした。
周囲を見渡していると、数メートル離れたところで彼の頭2つ分ほど下の身長を持つ小さな少年が立っていた。
柔らかな茶髪が風にゆれていて、日光の所為か、碧眼が輝いて見える。
「お前は?」
「あ、僕は柏原悠斗。よろしくねー! あーそうそう、淳也くんの事、暁美さんから聞いてるよ」
「暁美……? あぁ、朝比奈の事か」
悠斗と名乗ったこの少年、暁美の知り合いとのことだ。
彼はにっこりと満面の笑みを浮かべ、淳也の近くまで歩み寄ってきた。
馴れ馴れしいなと思った淳也だが、こんな幼い子供を無碍にするのもどうかと思い、彼を受け入れることにした。
「僕も旅についていくから、傷薬なんて要らないよ」
「何故?」
「あー……僕は治癒魔道士だからね。傷なら僕が癒してあげる」
「要は癒し手か。助かる」
治癒魔道士はその名の通り、病や怪我の治療を専門とする魔法に長けた人々の事。
丁度、行方不明である淳也の父も自分の事を治癒魔道士と称することあったので、彼はその単語を知っていた。
最も、今に至るまでは治癒魔道士の意味を自己解釈していたのだが。
「暁美さんからもらったお金はねー、僕だったら貯金するかな。宿とか取るときにいるし」
「あぁ、その手があったか」
「あ、でもそれだけ分のお金があれば、軽く2ヶ月は宿代に困らなくて済むと思うよ」
「そうか」
それにしても、知識が豊富なんだな。そう思った淳也は、悠斗を目を細めてみていた。
まるで、幼くして旅をした経験でもあるかのような話し方をしている。これはある意味、尊敬に値する。
何だか旅を続けていけるような気がしてきた淳也であった。
「お金はモンスター達が落とすこともあるからね。心配しなくて良いよ」
「モンスター?」
モンスター。つまりは化け物の総称である。
悠斗の話を聞く限りでは、どうやらルミナシアでは魑魅魍魎が跋扈しているらしい。
しかも中には火を吹いたり、魔法を操ったりするモンスターさえいるとのことだ。
「そんな化け物がいるのかよ? この世界に」
「うん。町を出ればうじゃうじゃいるよっ」
『マジか……聞いてないぞ……』
淳也が、ルミナシアにおいてモンスターがいるということを知らなくてもおかしくはない。
ルミナシアにいる人々にとってモンスターという存在は、所謂常識と同じような扱いをされてきた。
つまりは、居て当然。そんな意識を持っているのだ。
証左に、今の暁美に現実世界にはモンスターがいないということを話せば、彼女はきっとそれを信じようとしない。
『あー、常識の違いか……』
とにもかくにも、淳也はモンスターという存在を受け入れることにした。
全く異なる価値観や常識を持った人が異世界からやってきて、やってきた先で文句を言った所で何かが変わるわけではない。
所謂単なる我侭となり、よって新たな価値観や常識を受け入れるしかないのだ。
「じゃあ、僕も支度済ませてくるから。これからよろしくね!」
「あぁ、よろしく」
悠斗は淳也と別れ、北の方角へ向かって元気よく走っていった。
◇ ◇ ◇
淳也が商店街で右往左往していた頃、暁美はとある小さな民家を訪れていた。
緑に囲まれた町外れに、ひっそりと一軒家が佇んでいる。彼女はそこにやってきたのだ。
「沙那」
木製の扉を叩いて一言少女の名を呼ぶと、しばらくして玄関が開く。
中からは、赤い瞳を持つ小柄な少女〈早瀬沙那〉が出てきた。
「何」
「淳也を連れてきたわ」
「——行くの?」
「彼が、自ら進んで事故を起こしに行くそうよ」
「わかった。待ってて」
暁美の妖しい微笑みを一瞥した沙那は、再び扉の向こうへ姿を消した。
数分後、再び彼女はやってきた。何やら旅支度を済ませている。
「貴方も淳也の事、支えてあげて」
「当然」
涼やかな声で返事をした沙那。暁美の横を通り過ぎると、さっさと町へ向かって歩き出した。
暁美も後を追った。