複雑・ファジー小説
- Re: 常闇の魔法青年-Twilight of Anima-お知らせ ( No.23 )
- 日時: 2014/07/12 11:55
- 名前: 紅 (ID: gOBbXtG8)
- 参照: 三話〜親父と疑問と魔法使い〜
様々ないざこざに巻き込まれながらも、その後淳也達は無事、宿を取ることに成功した。
だがその日の夜、淳也はルミナシアではなく、暁美から教えてもらった魔法で現実世界に戻って来ていた。
彼の手には二通の封筒が握られており、彼は明確な目的意識を持って町を歩く。
この二通の封筒を、二箇所へと届けなければならないのだから。
『——ほう』
あまり時は経っていないにも拘らず、何故かこの現実世界が久しいものと感じる。
似たり寄ったりな世界同士とはいえ、ルミナシアと現実世界はやはり、根本的に何かが違うのだろう。
淳也はそう思いながら、一件目の封筒の届け先へと到着した。
彼が住んでいた家だ。
家には明かりが灯っており、カーテン越しに映る2つの影が動いている。
「うん?」
その時、淳也は不穏な疑問を抱いた。
————何故、人が2人家にいるのだろうか。
『おかしい……俺に兄弟はいないし……』
来客でもあったのだろうかと思い込むことにした淳也だが、家に近付いた瞬間、彼は眉間に皺を寄せた。
————何故なら、聞こえてくる2つの声のうち、1つが彼の父のものだったのだから。
一度姿を消した親父が、どうしてのうのうと家にいるのだろうか。
淳也は強烈な疑問を解消したくて家に入ろうかどうか迷ったが、やめた。
ここで両親に姿を見せては、恐らくはこれからの行動を制限される。
そうなってしまっては、暁美たちとのルミナシアを救うという約束を破ることになってしまう。
淳也は約束を破るのも大嫌いなので、家に封筒を届けることは後回しにした。
とにかく考えるのは後にして、夜中、両親が寝た隙を見計らうことにするのであった。
◇ ◇ ◇
淳也が辿り着いたもう一件の封筒の届け先は、彼が通っている学校だった。
時間的に、まだ補修などで居残っている生徒がいるので学校は開いている。
淳也は下駄箱でスリッパに履き替え、躊躇いのない早足で2階の校長室へと向かった。
高級そうな金縁の、白い大理石に似たもので作られた扉。
学校そのものが白を基調としているので違和感こそないが、それでも校長室は一段と華やかなのだろう。
淳也は少しだけ緊張しながら、扉をノックする————前に、聞き覚えのある声に反応した。
「淳也、何してるの?」
「あ? 真菰?」
少し離れたところでは、真菰が立っていた。
淳也は、面倒な奴に見つかった、と思いながら後頭部を掻き毟る。
「これだよ、これ」
そういって淳也は、手元の封筒を彼女に見せる。
「え、何これ。辞表?」
「ま、そんなもんだ」
「何で辞表なんて出すの? 学校辞めちゃうの?」
「あぁ」
彼が学校を辞める理由。それは単にルミナシアでの出来事だけが原因ではなかった。
◇ ◇ ◇
淳也がレグナートと戦った際、彼は違和感を覚えていた。
暁美の話を聞く限りでは、レグナートは、人間1人が立ち向かったところで傷1つ付けられないほど強力な龍である。
だが、魔法に関しては上等でも戦いに関しては素人の淳也が、ああも簡単にレグナートをねじ伏せたのだ。
これは何かがあるに違いない。そう思いながら暁美たちとスレインに向かっていた時である。
彼は小休止で少し居眠りをしていた際、夢であって夢でないような映像が脳裏で再生された。
その映像に映っていたのは、多量出血で倒れ伏す自分や、暁美を初めとする仲間達の姿。
悪夢でも見たかと思い込んでいた淳也だが、実際はそうではなかったらしい。
————闇の魔法は、時をも操る。そんな事実に気付いたのだ。
その事実に気付いたのは、真菰がスレインの門番へ突っかかった際に使用した闇の魔法。
あれは相手の動きを遅くしたのではなく、一定範囲内の時間の進み方を遅くしただけ。
自分で使った魔法なので分かる。あれは確かに時を操っていた。
「そ、そんなことが?」
その話を淳也から聞かされた真菰は、半信半疑というような表情で彼の目を見ていた。
「あぁ。だったら先に、この現実世界での俺は死んだということにしたほうがいいかもしれないと思ってな」
真菰はそんな淳也の考えに納得がいかない。
それでも淳也の考えは、ある意味理に適っているといえよう。
現実世界で死んだという報せが虚偽の情報で流される事と、永遠に行方不明になる事。
明らかに前者の方が、少なくとも世の中は上手く回っていく。
「でもそんな考え方って……」
「あるかもしれないぞい、真菰よ」
「?」
不意に校長室の扉が開き、中から校長である"山田義雄"が出てきた。
義雄の拳は、炎で燃えていた。