複雑・ファジー小説

Re: 常闇の魔法青年-Twilight of Anima-お知らせ ( No.26 )
日時: 2014/07/12 19:43
名前: 紅 (ID: gOBbXtG8)
参照: 五話〜やるべきこと、聞きたいこと〜

 再び、所変わって現実世界。
 淳也と真菰は、校長である義雄の右手が燃え盛っていることに驚いていた。

「ルミナシアから来た魔法使いなど、そこら辺にゴロゴロと転がっとるもんじゃぞ」
「そ、そういうもの……なのか……?」
「まあ、それはどうでもよいのじゃ」

 義雄は淳也の目を見た。
 彼の瞳の奥に宿る、全てを物語る眼を読み取っているらしい。
 淳也は目を逸らしたくなったが、とりあえずやめておいた。
 やがて義雄が頷いた頃、目線は外される。

「ルミナシア側で、何やら大きな問題を抱えておるようじゃな」
「——はい」
「うむ、ならそれでよい。辞表など、出すだけ無駄というものじゃぞ」

 義雄は逞しい背中を2人に見せ、部屋へと入っていった。
 残された淳也と真菰。視線を交わし始める。

「——とりあえず真菰はルミナシアへ戻ってろ。俺はまだ、やるべきことが残ってる」
「分かった。じゃねー」

 真菰は笑うと、魔方陣を展開してその場から姿を消した。
 さて、と1人呟いた淳也。彼は早足に学校を後にした。

 向かう先は、千影家。


  ◇ ◇ ◇


 千影家についたとき、家の明かりは既に消えていた。
 両親が恐らくは、淳也が学校にいる間に眠りについたのだろう。

 淳也は忘れ物を取りにここまで来た。
 そして、大きな疑問を解消するためにも、家の中に入る必要がある。

『よし、今のうちに……』

 淳也はゆっくりと、なるべく音を立てないように鍵をあけた。
 最悪の場合、魔法を使えばどうとでも誤魔化せる。
 だがここが現実世界である以上、何か抵抗を感じて、あまりその手段は使いたくないと思う淳也なのであった。

 淳也は足音を殺し、ゆっくりと2階へ上がって行く。
 そうしてたどり着いた先の扉。取っ手に手を掛け、開ける。

「あら」
「っ!」

 だが色々と想定外だったらしく、母親の恵子が未だに起きていた。
 サイドテーブルの明かりだけつけて、読書をしていたのだ。
 因みに父親の泰男は、この隣の部屋で鼾をかきながら熟睡中である。
 分厚い壁を1つ挟んでも聞こえるほど、その鼾は大きい。

「あらあら、淳也じゃないの。おかえり」
「た……ただいま……」
「——」
「——えっと……」
「——どうしたの? 寝れないから一緒に寝てくれなんて、言うんじゃないわよね?」

 恵子は微笑みながら淳也を見ている。
 更に想定外だ。
 何か言われるかと思いきや、何も言われなかったのだから。

「母さん、俺……」

 何を言えばいいのか、淳也は分からなくなってしまった。
 対して恵子はゆっくり立ち上がると、淳也の元まで歩み寄り、彼の頭を撫で始めた。

「ちょ……」
「いいのよ、何も言わなくても。今晩の事は父さんには内緒にしてあげるから、さっさと用事、済ませちゃいなさい」
「あ、あぁ」

 淳也は言われるがままに、自分の部屋に行くことにした。


   ◇ ◇ ◇


『確か、ここに……』

 淳也は自分の部屋へ入るなり、机の引き出しを探り始めた。
 山のようなプリントを引っ張り出し、プリント同士の間を確認しながら目的のものを探す。
 やがて机の上がプリントで覆われつくした頃、淳也は目的のものを見つけ出した。

『あった!』

 それは、ヘマタイトが埋まった腕輪だった。
 昔、淳也は父の泰男からこれを受け取っていた。
 何時か自分に災いが降りかかりそうになったら、この腕輪を身につけていろ、と言われて。
 因みにヘマタイトは、戦の神であるマルスの石とされる。


  ◇ ◇ ◇


「母さん」
「なあに?」
「ちょっと、聞きたいことがある」

 淳也は腕にヘマタイトの腕輪を嵌め、再び恵子の部屋を訪ねた。
 聞きたいこととは言わずもがな、父の事についてである。
 だが、腕輪を見た恵子はその質問を跳ね返した。

「ごめんね、聞きたいことは大凡分かるのだけど、それには答えられないわ」
「何でだよ……」
「そうね……じゃあ……」

 恵子は少し考える仕草をして、やがてサイドテーブルに本を置くと、淳也の元へと歩み寄り、また彼の頭を撫で始めた。
 そしてこの上なく優しい声で、彼の耳元で囁いた。

「いつか淳也が試練を乗り越えれたら、教えてあげるわね」

 淳也は、何となくその意味が理解できた。