複雑・ファジー小説

Re: 常闇の魔法青年-Twilight of Anima-お知らせ ( No.27 )
日時: 2014/07/13 13:24
名前: 紅 (ID: gOBbXtG8)
参照: 六話〜奴はどこだ!〜

 スレインの町の中心には、世界的に見ても大規模な美術館がある。
 展示されているものも全て国宝級であり、正に五本指に入る存在といえる。
 だからこそ、そこを付け狙う輩も多い。そして警備も厳重——のはずであった。

「おい! 奴はどこだ!」
「い、いえ……奴の行方は未だ掴めていません……」
「馬っ鹿モォォン! 今度ナインの野郎にスレイン美術館に侵入されたら、ワシが泥を被ることになるのだぞ! お前はそれでもワシの部下か!? ワシに忠誠を誓った部下なのか!? えぇっ!?」
「け、警部……落ち着いてください……」

 とある夜更けのことである。
 スレイン美術館の前では今、パトカーが何台も待機していた。
 警察官もかなりの人員が手配されており、全員に置いて例外なく、彼らは皆忙しそうに動き回っている。
 あっちにドタバタこっちにドタバタと、忙しないことこの上ない。
 そんな中、探偵風の恰好をしている年老いた男"サイモン"が、若手の警察官に怒声を発していた。

「これが落ち着いていられるものか! ナインめ、ゆくゆくはワシが自ら捕まえてみせる……」

 サイモンは、スレインの町に派遣されたベテラン探偵の1人。
 "捕縛の眼"という通り名が彼にはついており、一度目を付けられれば、事件の犯人は必ずや逮捕されるに至るという。
 今回は、スレイン美術館の作品を狙う怪盗"ナイン"の行方を追うために派遣された。
 だが、ナインの行方の捜索はかなり難航していた。
 そんな現実に、サイモンはとうとう痺れを切らせたらしい。

「おいおい、どこに目つけてんだよサーモンさんよ?」

 夜の街に突然、若い青年の声が響く。
 皆が空を見上げると、美術館の屋上を見張っていたはずである警察のヘリコプターが離脱し始めていた。
 垂らされたロープに捕まっているのはナインだった。

「ワシはサーモンではない! サイモンだ! 何度言えばわかるのだ!」
「ご生憎様、俺は人の名を覚えるのが苦手でね。特にややこしいのはさ」
「ま、待てぇー!」

 サーモンと呼ばれて激昂するサイモンだが、ナインはそのまま、夜空の彼方へと姿を消した。