複雑・ファジー小説
- Re: ××異能探偵社×× 【執筆中】オリキャラ募集中! ( No.14 )
- 日時: 2014/07/05 15:38
- 名前: るみね (ID: 8hBaEaJR)
第弐話 [異能探偵社]
「こういうわけで、桃矢くんに働いてもらう事にした」
あの衝撃的な発言のあとで、とりあえず説明しろとなじられ結果として今三人はそこから少し離れた喫茶店に腰を落ち着けていた。
その一連の説明が終わったところで男はしばし黙り込んだ。
「……おい、バカ人。気でも狂ったか」
「バカ人じゃないし、気も狂ってないよ。修ちゃん」
「その修ちゃんやめろって何度言ったら……」
再び青筋を浮かべる男に対して鷹人は再びあの笑顔で桃矢の方を見た。
「どう?君も悪くない話だと思うけど…………聞いてないね」
「ふぁんのふぁなしふぁっふぇ」
パンケーキを口いっぱいにつめている桃矢をみて鷹人は苦笑した。
すでに桃矢の前には空の皿がいくつも積まれている。
「まぁ、とりあえずそれ飲み込んでから話そうか」
慌てて紅茶でパンケーキを流し込む。
食事をとった事で大分落ち着いて来た。
「よく食うな」
男は感心したような呆れたような感じで桃矢を見ているが、そういう男の前にも顔に似合わない抹茶パフェが置かれている。
「だいたい、お前なんでそんな餓死寸前にまでなったんだ?」
「いやぁ……俺、もともと【帝都伍区】で大きなお屋敷の下働きみたいな事やってたんですけど、そのお屋敷で火事が起きて、見事に全焼。当然家の方に僕みたいなのやとってる余裕も無くなっちゃってすぐにクビ。住み込みで働いてたんで家も仕事もなくしちゃって」
「……」
「仕方ないから仕事探そうとしたんですけど、すぐに雇ってくれるような景気のいい家はあんまりなくて。財布は落とすし。頼れる人もいないし」
「…………そうか」
「壮絶だね」
語るたびに暗くなる桃矢の言葉を聞いて若干引きながら相づちを打った。
「だから!」
桃矢が突然大声を上げたのでビクッと身体を震わせる。
「働かせてくれるって狗木さんの言葉!信じて良いんですよね!?」
二人に必死の形相で詰め寄る桃矢に鷹人はどうするのという感じで男を見た。
「何かと役に立つと思うよ?」
「精一杯頑張ります!!」
男はしばらく押されていたが渋々という感じで頷いた。
「あぁ〜、わかったわかった。狗木の勝手にしろ」
「おぉ、さっすが」
「社長と東郷には自分で言えよ」
「おぉ……」
なぜか声のトーンが下がる鷹人の一方で桃矢の顔は輝いた。
「ありがとうございます!!えっと……」
「園村だ。園村修兵」
「修ちゃんね♪」
「……お前、年上に対する口の聞き方考え直した方がいいぞ」
「で。”異能探偵社”ってなんなんですか」
素直な疑問に修兵はぎろっと鷹人を睨んだ。
「その説明しないで提案したのか」
「修ちゃんがやってくれると思ったからね」
純粋な笑顔で修兵を見つめる鷹人にしばらく沈黙していたがため息をつくと口を開いた。
「”異能探偵社”。探偵社を名乗っているが俺たちが受けるのは普通の探偵社の仕事じゃねぇ。受けるのは特殊な案件がメインだ」
「特殊?」
「”異能者”を必要とする戦闘力に特化した案件だ」
「かっこつけていっるけど軍警が面倒くさがった荒っぽい事全部こっちまわしてくるのよ」
鷹人の付け加えた言葉で修兵の説明が力ない物に変わる。
「まぁ、こうやって説明しても分かりづらいだろうし。挨拶がてら探偵社に行こうか」
××
少し離れた【帝都10区】____
赤煉瓦の街並はかなり年代が立っているが整っている。が、とても治安がいいとは言えない場所だ。
そこの通りの一つにやってきた。
案内されたのは古い建物で一階は【猫の目】という看板のさがっている喫茶店で、鷹人は店内に向かって軽く手を振った。
「清子ちゃん〜♪」
声で気づいたのか店内にいたウエイトレスがぺこっと頭を下げた。目をやった桃矢は顔をあげた彼女を見て思わず足を止めた。
肩程までのサラサラの黒髪、遠目でも色気さえ感じさせる整った顔立ちの彼女は桃矢に気づくと同じように会釈をして裏手に消えてしまった。
「……可愛い」
思わず見とれた桃矢は突然の頭の衝撃で我にかえった。
「動け、馬鹿。見とれてないでさっさといくぞ」
そう言ってスタスタいってしまう修兵の後を慌てて追った。すでに鷹人は喫茶店の隣の四階建ての複雑な形をしたビルに入っていった。
ビルは小さな部屋が集まったアパートのようで桃矢はきょろきょろしながらボロいエレベーターに乗り込んだ。
「さっきの人って……」
「露人はあそこで働いてるウエイトレスだ。探偵社の連中はあの店常連だから顔見知りなんだよ」
「露人さん……」
名前を聞いてテンションが上がっている桃矢を見て修兵は複雑な表情を浮かべた。
「美人さんですよね。なんか儚い美人って感じで」
「儚いなぁ……」
唸る修兵を気にせず桃矢は改めて乗っているエレベーターを見た。いかがわしいチラシや軍警からの指名手配書などが乱雑に貼られていた。
「事務所ってこのビル全部ですか」
「嫌。一応社長のビルだが事務所は3階の部屋だけだ。あとは社員の部屋だったり他の事務所も入ってるな」
「部屋……」
「探偵社の人間なら住めると思うぞ。家賃タダで」
タダという言葉に桃矢の目が輝いた。
「タダって、ホントですか!?」
「あぁ。実際に使ってるのは数人だから部屋は結構空いてるぞ」
「え、仕事場が目の前で家賃もただなのに何で____
桃矢の疑問の答えはチンッと言う金属音と共に空いたエレベーターの外にあった。
目の前で空中で投げ飛ばされる大柄な男を見て桃矢の思考回路は数秒間完全に止まる。
____え?
派手な音と共に男が床に横たわる。
「またか。今度はなんだよ」
呆れながら平然と倒れた男を踏みつけエレベーターから出る修兵に桃矢は我にかえっていそいで後をおった。
「おぉ、園村先輩!おかえりなさい」
男を投げ飛ばした張本人である青年が快活な笑顔で迎えた。
「ただいま、創平。社長は?」
「社長はしばらく遠出ですよ。東郷先輩ならいますけど」
「わかった。返り血はちゃんと拭いとけよ。客が引くから」
「分かってますって」
その笑顔に似合わない物騒な音と男の悲鳴を背後に聞きながら桃矢の顔は青ざめた。
「あれって……」
「日常風景だ」
「……」
廊下を歩きながら桃矢の脳内でヤバいという考えが浮かんだ。
「ここだ」
突き当たりの少し他に比べて大きめの扉に案内される。
扉には【異能探偵社】の看板。
少し迷ってから扉を開けるとそこには思ったよりも広い空間があった。
木製の机が複数置かれ、数人の人間が座っていた。
「修兵さん、おかえり」
手近にいた猫背の男が呟くように言った。
「おぉ。ただいま」
軽く言う修兵に続こうとして一瞬男を見た桃矢は男の周囲を淡く光る虫が飛び回っているのに気づいた。
「…………虫?」
小声で呟いたとたんに男はキッと顔を上げると桃矢を睨んだ。
「え、え……」
慌てる桃矢は会釈だけすると逃げるように離れた。修兵に追いつくと先についていた鷹人が手を振った。
「遅かったじゃん」
「全力疾走するような体力は使わないからな」
皮肉っぽく言う修兵の言葉など気にもとめずに鷹人は手を叩いた。
「ちゅうもーく!!!」
部屋にいた数人の人間の視線が集まる。
あまり囲まれる事に慣れてない桃矢は背中に冷や汗が流れた。
「今日からここで叩いてもらう事になった冬月桃矢くん。色々あったらしくて見習いってことで働いてもらうから」
いろいろ説明が省かれた無茶な発表にもっと動揺するかと思いきや周囲の反応はあまり大きくなかった。
「社長には?」
実直そうな男が聞いた。
「俺から言っとくよ。それでいいよね」
男は了解というように軽く頷いた。
そして立ち上がると桃矢に手を差し出した。一瞬戸惑ったがその意味に気づいてあわてて握手をする。
男は20代後半といった雰囲気で、短い黒髪にがっしりした体躯だが穏やかな笑みで安心感を与えられているようだ。
「俺は東郷大地。よろしくな、桃矢くん」
___まともだ。
話が通じそうな人間との出会いで思わず感動してしまう。が、
「仕事場は治安の悪い場所も多いし命の保証も出来ないけどな」
穏やかな表情で語られた衝撃的な言葉で桃矢は今日何度目かも分からない沈黙に包まれた。
「え?」
なんだか不穏な流れに桃矢の脳内で警告音が流れる。
「おまけに仕事で恨まれたりして事務所に報復してくる襲撃者も多いし。銃撃戦もしょっちゅうだからさ」
「……襲撃」
警告音がけたたましい音をたてている。
さっきエレベーターで修兵が言ったここに社員が住まない理由が分かった気がした。
「あの……」
「いやぁ、助かるよ」
逃げ腰になる桃矢に向かって鷹人は悪魔のような笑みを浮かべた。
「この間来た新人君がやめちゃったから探してたんだよね」
鷹人のこの言葉で桃矢の脳内警報機が爆発した。
「やっぱ俺……」
「そういえばさっきの喫茶店の食事代。僕が払っておいたからね」
桃矢が食べた金額を見せられ、自分が逃げられない事を悟る。
「よ、宜しくお願いします」
_____俺はとんでもないところに転がり込んでしまったのかもしれない。