複雑・ファジー小説
- Re: ××異能探偵社×× 【7/5up】オリキャラ募集中! ( No.23 )
- 日時: 2014/07/09 21:33
- 名前: るみね (ID: 8hBaEaJR)
第参話_壱 初仕事
「朝……」
ここ数日間では信じられない程清々しい目覚めに桃矢は感激しながら目をさました。
場所は昨日から働く事になった異能探偵社の入っている建物の一室で今日から桃矢の部屋だ。社員は(訳ありで)家賃タダの少しボロくて狭い部屋だが、今の桃矢には楽園にも見える。
なにしろ屋敷からでて以来ずっと路上生活だったのだ。
「チンピラは絡んでくるし、怖いおじさんたちはいるし……」
そんなことを思い出しながらも服を着替える。
気を聞かせてくれた大地が新しいシャツと服をくれたのだ。
感謝の言葉を唱えながら着替えて、昨日の鷹人の言葉を思い出した。
____とりあえず、社長が帰ってくるまでは使用期間ってことで皆の助手になってもらうから。そこんとこ宜しくね
「助手って何するんだろ」
昨日の不穏な仕事内容を聞いてからはあまり想像したくないが。
とにかく、服も来て部屋を出ると一つ上の階の事務所に足を運んだ。
少し迷いながらも昨日案内された部屋の前にたどり着く。
凝った深緑色の文字で印字された”異能探偵社”の文字____
「今日から俺の仕事場……」
「昨日色々怖い事言ってたけど、ちょっと脅されただけだ。うん。大丈夫。東郷さんとか普通の人だったし」
そう自分の良い聞かせ深呼吸してから勢いよく扉を開けた。
+
「おはようございま————————
そういった桃矢の顔面に爪を立てた手が迫っていた。
「おおうぅっ!!!」
驚きとも悲鳴ともつかない声を出しながら必死で避ける。
その避けた桃矢の横をかすめた手は通常手が当たっただけでは聞こえるはずの無い鋭い音と破壊音をたてて扉に文字通り突き刺さった。
「あれ、案外すばしっこいのねぇ。結構本気だったんだよ?」
「な、な、な。なんですか!」
驚いて見上げるとそこにいたのは濃紺のショートボブの小柄な女性だった。
大人しそうな雰囲気と今の行動のギャップにしばし口をぱくぱくさせていたがそんな女性の頭を修兵が軽く叩いた。
「やめろ、能登。しょっぱな新人狩るな」
「だって、前の子みたく私へのプレゼントなんでしょ?」
「なにがプレゼントだ。とにかく黙れ」
すり寄ってくる彼女を手で追い払う。
「悪いな、新人が来たら毎回あんな感じなんだ」
「い、いえ。問題ないです」
精神的には明らかに問題有りだがいまそれを追求する元気は無い。
「悪気は無いの。よろしくね」
「よ、よろしくお願いします」
おそるおそるというていで挨拶を交わしたが、特に何をするでもなく彼女は自分の机に戻っていった。
若干安心したような拍子抜けしたような桃矢を気にせず修兵が桃矢を呼んだ。
呼ばれたのは探偵社にたくさん並んでいる机のうちの一つだ。なにも置いていない空机。どうやら社員一人に一つの机が与えられるらしく、どの机も所有者の趣味や仕事の書類で溢れてていて一つの机などには上に鳥かごが置かれ、中で小型の鴉を飼っていた。
「桃矢の席はここ」
「はい!」
「俺は隣だから、わかんないことあったら言えよ」
「は、はい!」
顔は恐いがなんだかんだ世話焼きのようだ。
とりあえず、なにもない机に腰を下ろすと桃矢の向かいの机に座っていた青年が笑いかけて来た。昨日エレベーター前で男を投げ飛ばしていた青年だ。
天真爛漫な笑顔で桃矢に握手の手を差し出した。見るからにスポーツ系男子という言葉がふさわしく紺色の蛮カラを来ていた。
「俺は篝火創平!よろしくたのむっすよ新人くん」
「ふ、冬月桃矢です」
「よろしく。あ、創平とか呼んでいいから。俺も桃矢って呼ぶし。年齢は?」
「18です」
「あ、じゃあ俺の一歳下か。俺、19。あ、でも年齢とか気にしないでいいっすから」
早口にまくしたてられて目を白黒させながらも頷く。
「いやぁ、今まで俺が一番年下だったからさ。徹とか一歳差でたいしてかわんないくせに」
「後輩が出来て嬉しいんだ。好きに喋らせとけ」
なにか書類に目を通しながら修兵が口を挟んだ。
「で、なんか質問とかあるか?」
数分自由に話し続けた後に言葉を切って尋ねた。
「あ、じゃあここの人たちの事……。今いるので全員なんですか?」
「嫌。何人かは非番だったりして今いないな。社長とか牡丹さんとか。ここにいる面子だと、昨日一瞬見たよな」
指差したのは壁際の机で猫のように背を丸めて小さく座っている黒い和装の男を指差した。トンボ眼鏡が印象的だ。
「根岸太一。揺光っていう生物を操る能力を使う」
「あ、あの周り飛んでる?」
「そうそう。ただ、シロアリって言うなよ。キレるから」
だから虫って呼ばれるのも嫌だったのか、と一人で納得する。
「さっきの女の人は」
あのショートボブの女性を指差す。こちらに気づいて軽い笑みを見せる。先ほどの光景を見ていなければ十分可愛いがどうも恐怖感を覚えてしまう。
「あぁ、能登潤さん。俺らの二つ上。さっきは良かったな避けて」
「……」
「避けなきゃ爪で頬肉ぐらい避けてたかもな」
「爪で?」
「潤の異能は爪を刃に変える能力だからね〜」
「!?」
不意にすぐ後ろから聞こえて来た女の声に桃矢は飛び上がった。振り返ると赤い和装に澪包んだ茶髪の女性が立っていた。
まるで気配を感じさせずに現れた彼女を呆気にとられて見ているとその様子が面白かったのか女性はケラケラ笑った。
「あぁ、紅魅さん。おかえんなさいっ」
「ただいま、創平。あんたが狗木がスカウトした新人君?」
「はい、冬月桃矢です」
「あたしは暮葉紅魅。まぁ、死なないように気をつけてねぇ」
不安しか残らない言葉にもはや苦笑しか出来ない。
「狗木先輩は知ってんだろ? じゃあ、今いないのはあとは徹と大地さんぐらいか」
ぐるっと周囲を見渡しながら言葉を切った。
「説明終わったなら仕事だ」
書類を整理し終えた修兵が言った。
「当麻先生の依頼だ。暮葉、桃矢と創平と一緒に__」
「あたしパス。今日は天気悪いから」
「お前……」
瞬間断った紅魅にイラッとしながら諦めたようにため息をつく。
「え、しょっぱなからいいんですか。俺、難しい事……」
「仕事っつっても、いつもの喧嘩仲裁だ。比較的簡単だし、お前らだけでも平気だろ」
「喧嘩仲裁?」
説明不足に多少不安を覚えつつも頷く。
「詳しい事は俺が説明してやるよ」
嬉しそうに創平が言う。
「ついでに行方不明のバカヒトも探してこい」
そういえば桃矢をひきずりこんだ張本人の姿が無い。
「わかりました」
「いってらっしゃい。気をつけてね〜」
紅魅の明るい笑顔で二人に手を振った。
その言葉になんだか背中がむずむずしたが戸惑いながらも「いってきます」と手を振りかえす。
_______よし、初仕事だ。