複雑・ファジー小説
- Re: ××異能探偵社×× 【7/30up】 ( No.33 )
- 日時: 2014/08/10 12:23
- 名前: るみね (ID: 8hBaEaJR)
第肆話_壱 [”大鴉”]
___おはようございます。八月一日のニュースをお伝えします。
____はじめに、今日未明に【拾参区】で男性の遺体で発見されました。
遺体は損壊が激しくまだ身元が分かっていませんが、軍警は先週の金曜日に【帝都玖区】で事件を起こし、指名手配されていた容疑者の男性の可能性が高いとしています。
軍警の犯罪部は殺人事件として調査を始めています。
____次のニュースです。昨日【陸区】で発生した暴行事件について軍警は聞き込みを続けていますがまだ犯人は———
探偵社の黒いラジオから流れるニュースを聞いていた桃矢は動きを止めた。
「これって……」
「消されたわね」
「消されたな」
「消さ__!」
そばで同じようにラジオを聞いていた潤と太一があっさり言うのを聞いて桃矢が固まる。
「【帝都】の【裏街】じゃ日常茶飯事じゃない?【亡霊】なんてデカい組織だと特に。裏切り者への報復、暴行、拷問、処刑……」
頼りなそうな表情に釣り合わずに楽しそうに単語を並べる潤から少し離れる。
「ちょっと潤さん。あんま新人虐めないでくださいよ」
隣で書類整理をしていた創平が助けに入る。
「あれ、これが私のスキンシップなんだけど」
「スキンシップって……」
「そういえば桃矢。この間の病院の外壁とか器物破損の事で三時に当麻先生が顔出せって言ってた」
「え、ちょっと太一さん。あれ俺じゃないですよ!大地さんで——」
抗議の声をあげたがそれを大地が遮った。
「悪い、頼むよ。俺これから別の仕事でさ。出来るだけ行けるようにするから」
「出来るだけ……」
「一応桃矢の初仕事だから。先輩の後始末をするのも新入りの役目」
「理不尽です!」
太一の説明に抗議するが意見は通らず、
「じゃあ、俺いってくる」
大地が慌ただしく事務所を後にした。時計を見ると九時を過ぎている。それをみて創平もあわてて支度をした。
「やっべ。俺も今日仕事だ。いってきます!」
「俺もだ……」
創平と太一も探偵社を出て行き、残ったのは桃矢と潤と紅魅だけだった。
「いってらっしゃぁい」
明るく手を降る紅魅の影で桃矢はうなだれていた。
「修平さん、早く帰って来て……」
思わず今ココにいない男を思い出す。
「ホントにそうよねぇ、修平先輩がいないと怒ってくれる人いないからつまんない」
潤が同意するが若干ずれている。
「つまんないっていうより、収集つかないですよ。基本フリーダムな人たちだし。……というか、修兵さんはここ数日何処に行ってるんですか」
「長期の仕事回されたみたい。なんか軍警から直接仕事依頼されちゃったらしいの」
「長期なんてのもあるんだ」
「先輩は結構多いよ。潜入とか、スパイとか……。経験あるから」
「あぁ……」
鷹人が言っていた事を思い出す。修兵は元は軍警の【隠密部】なんて怪しい名前の部署所属だ。
潜入調査も仕事のうちにあっただろう。
「へぇ、探偵らしい事もしてるんですね」
「”異能探偵社”だからね♪」
「……その”探偵社”には買い出しとかの雑用も仕事にあるんですね」
「依頼がないときは仕事選べない。仕方ないでしょ」
その言葉でジトッとした視線を送ったが潤に流される。
「もうホントにヤですよ。昨日の買い物の依頼。商人の人も怪しかったし、怖いし、帰り道になんか不良にまたかつあげされたんですよ!」
「桃矢くん。弱そうだからね〜」
紅魅の遠慮のない言葉にくらっとしながらも聞かなかった事にする。
「でもちゃんと買って来たよな」
「全力で逃げましたよ。頭真っ白でもうどうやって逃げたのかも覚えてません」
「お疲れ」
必死の訴えも二人に笑顔で片付けられた。
「まぁ、今みたいなドタバタは珍しいから」
「社長は出張、頼りの大地先輩も依頼続き。おまけに修兵先輩まで出払っちゃうもんだから」
頼れる年長者がいない事になる。
「ここに常識があって仕切ってくれるまともな人はいないんですか……」
桃矢にそう言われ潤と紅魅は顔をみ合わせた。
「ん〜……」
「縁さんぐらい」
初めて聞く名前に首を傾げた。
「エニシさん?」
__なんだ。まだいるんだ。
ちょっと安心する。
「どんな人なんです?」
「どんな……」
「探偵社で一番先輩で一番強い人」
「探偵社で、一番、強い……」
この間、いったんではあるが垣間みた大地の戦闘能力はかなり高い。
それよりも上……
「もしかして、その机の人ですか」
桃矢が指差したのは窓際の一番端の机で、書類が散乱した上に鴉の入った鳥かごが置いてある机だ。
ここに来て一週間以上たとうとしているがこの机の主とはまだ一度もあった事が無い。
「そうそう。縁さんも数日間仕事だったけど今日終わりでそろそろ帰ってくるはず……」
噂をすれば。廊下から微かな足音が聞こえて来た。
「あ、帰って来たかな」
紅魅がすくっと立ち上がると扉に手をかけた。
しかし、紅魅が扉を開ける前にガバッと桃矢が顔を上げた。
「待って!この足音は駄目です!!」
「え?」
紅魅が聞き返すのと銃の発砲音がするのが同時だった。
木製の扉の丁度紅魅がたっていた中心部分が吹き飛び複数の風穴があき、それは紅魅にまで達していた。
「紅魅さん!!!!」
目の前で撃たれた紅魅を前に思わず叫び声をあげるが、倒れる紅魅にかけよる間もなく蹴破られた扉からマシンガンやら銃やら火気類を抱えた十人程度の男達がなだれ込んで来た。
「あぁ、なんだ襲撃か」
期待はずれのようにあっさりという潤に逆に慌てる。
「し、襲撃かって……そんな軽く」
「【帝都】じゃ日常茶飯事。初日に修平先輩に説明されてたでしょ?」
「いや、だってこんなあからさまな」
「なにごちゃごちゃいってんだ」
銃を向けられているにもかかわらずあまりの緊張感の無い会話に思わず男の一人が叫ぶ。
しかし、潤はそんな男に向かって不敵な笑みを浮かべた。
「あんたたち。なんで今ここを襲撃したの?」
黙っている男達に構わず潤は続ける。
「今の時間帯、探偵社は仕事がある人間はこぞって出かけるから事務所には人が少なくなる。あんた達もうちを襲撃するぐらいなんだから当然いろいろ調べたんでしょ? いつの時間に誰がいていなくなって。さっきあんた達にとって危険人物の大地さんが離れて、今ここにいるのは女二人に先週だかに駆け込んで来たヒョロい子が一人。私たち相手だったら簡単に人質にでも出来て探偵社相手に出来ると思っちゃった? いや。思っちゃったのよね?だからいまこうしているんだもんね」
早口でまくしたてるように紡ぎ上げられる言葉に男は何も言う事が出来ない。
潤もそれを楽しむように言葉を続けた。
「でも甘い。甘いのよ。女相手だろうと”異能者”相手にしようとするんだったら____
そこで桃矢は倒れたはずの紅魅の姿が何処にも無い事に気づいた。
「____まずはちゃんと相手が死んだかどうか確認しないと」
潤の言葉が終わる瞬間。
一番はじにいた男が潰れた蛙のような悲鳴を上げて倒れた。
見れば口から泡を吹いている。
突然の事態に動揺する男達のそばで二人目が同じように身をよじらせて倒れた。
その時桃矢が見たのは空中に浮かぶ一組の腕だった。
「おおかたなんかの依頼の報復だろうけど」
今度は姿の見えない紅魅の声が部屋中から聞こえて来た。
「相手の異能も理解してないような一般人が銃だけで制圧出来るほどうちはやわじゃないの」
その言葉に男達の銃口がふらふらと声の行方を追ったがはっきりと捕らえる前に金属のこすれるような軋むような音が響き拳銃が切断される。
「紅魅さんばっか相手にしないでよ。寂しいじゃない」
鋭く伸びた爪をみせながら潤が言う。
「ほんと、骨が無いのね。鉄も柔過ぎて全然楽しくない」
そう言って震った腕が一番近くにいた男の腕に触れ、鮮血が壁に飛び散った。
「ひっ!!!」
「あ、ごめん。血飛ばすと修平先輩に怒られるんだった」
「出来るだけ出血しないように攻撃するから許して♪」
潤の言葉で男達の表情から完全に余裕が消えた。
「一方的過ぎて可哀想だ……」
目の前の光景をみて思わず襲撃者に同情してしまう。
「ち、ちくしょう……話が違うじゃネェかよ……」
持っていた銃口を切断され腰を抜かしていた男の一人が呟いた。
それを聞いた桃矢は恐る恐る近づいた。
「話が違うってどういう意味だよ」
「てめぇらは探偵社でも下っ端だって情報だよ!だから襲撃するならこの時間だって!」
「まぁ、事実女とひょろい桃矢くんだけだから信じてもおかしくないか」
紅魅が頷く。
その時ぐぎゃっという悲鳴が背後から響く。
「とりあえず軍警連れて行ったらどうだい?」
聞き慣れない声に振り向くと入り口に襲撃者の一人の手を踏みつけている女性がたっていた。堂々とした登場に驚くがそれも彼女の異常に気づくと消え失せた。
____黒い___羽根?
桃矢の目にとまったのは腕や首筋から無数に生える黒い羽根だった。が、見る間に腕から生えていた羽根は存在を消し白い腕が現れた。
「あぁ、縁さん。おかえりなさい」
_____縁って、さっき言ってた
「ただいま」
そういって笑うのは肩程までの黒髪に深い赤色の瞳の女性だった。
黒を基調にしたシンプルなワンピースにタイツ、白い肌に赤い口紅が生える美人だ。
「ったく、なんだい?仕事も終わってのんびりしようと思ったのに、来て早々襲撃?」
「もう片付きましたよ」
「こうだってわかってたらもうちょっとのんびりしてたのに。徹、なんで教えないんだい!」
「理不尽ですよ。いくら俺でも想定してない人間まで読めませんよ」
背後から現れた男がふてくされる。
桃矢と同じか少し上程で茶髪に黒の和服を着込んでいた。
「とりあえず、こいつらどうします?」
「気絶させて一階に捨ててきな」
サラッと酷い事を言っているが潤も紅魅もつっこむ訳でもなく、テキパキと襲撃者を片付けにいった。
「えっと……で、あんたは?」
一瞬何の事だか分からなかったがそれが自分に向けられた言葉だと気づく。
「あ、えっと……」
「先週からうちで働いてる冬月桃矢だって。年齢18歳。両親なし。チンピラに絡まれてたところを鷹人さんが助けた事でうちで働く事になったみたいだね」
桃矢が言おうとした言葉をそっくりそのまま攫われた。
意味深な笑みをみせる男は手を差し出す。
「赤嶺徹。驚くのもわかるけどとりあえず君の事を見張ってたわけじゃないから。一応」
再び驚く桃矢を見て彼女が助け舟を出した。
「徹の能力は”以心伝心”。相手の心を読む能力だからな」
「ちょっと変な印象植え付けないでくださいよ」
抗議するが徹の言葉など気にせず女性も手を差し出した。
「縁牡丹。よろしくね。なんか困った事あったら遠慮なくいいな?わかった?」
「は、はい。よろしくお願いします」
はきはきした牡丹の物言いに飲まれそうになりながらも会釈する。
「さってと。桃矢だっけ?」
「は、はい……」
「今日暇?」
「え、あぁ……午前中なら」
「十分よ」
牡丹がすくっと立ち上がった。
「今日は仕事終わりだし久しぶりの非番だから買い物行きたいの。桃矢と……徹はいないのね」
「あ、れ?」
さっきまでそばにいたはずの徹の姿が消えている。
「まぁ、いいや。今日暇?」
「え、あぁ……午前中なら」
「つきあって!」
「は、はい」
断る間もなく強制連行に近い形で桃矢は連れ出された。
襲撃者を片付けて部屋に戻って来た潤と紅魅が見つけたのは部屋の隅のソファーで寝転がっている徹だけだった。
「縁さんは?」
「あの新人と買い物」
「縁さんと買い物か……」
「荷物もちよねぇ」
「徹は行かなかったの?」
「駄目。あの人は苦手。俺が読んでるって分かってる上で突っ込んでくるから」
「なるほどね」
「で、紅魅と潤以外は皆仕事なの?」
潤が皆の仕事の説明をする。
「こんな感じ」
「ふぅん……」
しばらく黙った後でふと徹は顔を上げる。
「一人忘れてない?」
「え?」
「あのバカヒトは?」