複雑・ファジー小説

Re: ××異能探偵社×× 【8/10up】オリキャラ募集! ( No.48 )
日時: 2014/08/12 17:21
名前: るみね (ID: 8hBaEaJR)

  第伍話_壱  [真実]


「はい、到着♪」

 異能を解除し満面の笑みを浮かべる牡丹の横で青い顔で跪く桃矢。

「まだ五分もたってないから。早く言って用事すませな」

「ひ、ひゃい……あ、ありがひょうごじゃいました」
 吐き気を堪えながら頭を下げる。
 牡丹が届けたのは当麻医院の敷地の中庭のような場所で牡丹に気づいた病室の子供が手をふっていた。

「牡丹お姉ちゃん〜」
「久しぶりだね」
 笑顔で手をふりかえす。
「人気なんですね……」
「そりゃあ牡丹ちゃん美人だから」
 桃矢の疑問はわきから現れた白衣の男に答えられた。
 その声を聞いて牡丹が露骨に嫌な顔をする。

「いやぁ、そこの餓鬼をよんでまさか牡丹が来てくれるとは思わなかったよ」
「うせろ、変人!さらっと呼び捨てにしやがって」
 即座に変化させた鉤爪の足が当麻の顔面を蹴った。
「あいかわらずつれないなぁ」
 頭から大量に出血しながら平然と煙草をふかす。

「ち、ちょっと!縁さんなにやってんですか!」
「心配するな。こいつはこれぐらいじゃ死なない。もう一発やらせろ」
「駄目ですって!」
 さらに蹴ろうとする牡丹を羽交い締めにする。

「んだよ、蹴られてるのに無抵抗に全てを受け止める俺ってのもいいと思ったのに」
「そういう変人プレイは彼女とでもやったら?」
 牡丹がそう言うと当麻は頬を緩めた。
「ハニーにそんなことさせられるわけないじゃないかぁ♪」
「気色悪いからその裏声やめろ」
 あわあわする桃矢の腕を振りほどくと牡丹は両腕を再び黒い翼に変化させた。

「じゃあ、桃矢。くれぐれも気をつけろ」
 心配しか残らない言葉を言い残して牡丹は飛んでいってしまった。
「残念だ……」
 惜しそうに牡丹を見送る当麻だったがすぐに桃矢に向き直った。

「まぁ、とりあえず中はいって」
 中庭から当麻の個室らしい簡素な部屋に案内された。

「で、話なんだけど……」

「すいませんでした!あ、あの器物破損の件ですよね。それなら壊した費用は探偵社で負担するらしいので請求書を、あ。あと、壊した張本人は少し遅れるみたいで」
 必死にまくしたてるが当麻は別段怒っているわけでもないらしい。
「まぁ、探偵社にはもちつもたれつだからそこはいいよ。基本俺のおたくへの依頼料はタダだから」
「へ、なんで」
「なんでって、お前らみたいな年中喧嘩してる馬鹿の怪我俺の他に誰が見てくれるってんだ」
 不敵な笑みに思わずのけぞる。

「こっちもお前らには安い治療費できっちり直してんだから感謝してほしいね」
「なるほど……」
 しばしの沈黙。

「あの、じゃあ今日はなんで——」
 もし、今のがいつもなら別に桃矢が呼び出される必要性が特にない。
 当麻は桃矢の質問に答えずおもむろに白衣の内ポケットから煙草を出して吸い始めた。
「あの、ここ病院……」
「ここは俺のプライベートルームだ」
「……」
 しばらくすっていたのだが唐突に口を開いた。

「桃矢っつったけ?」
「はい」
「バカヒトから聞いた。【帝都伍区】で使用人やってたんだって?」
「えぇ、兄と一緒に……」
 怪訝な顔をする桃矢とちがって当麻はなんの表情もみせずに煙を吐き出した。









「桃矢くんの事?」

 紅魅が聞き返した。
「なんでそんなこと調べてんの?」



「桃矢くん。恐がりだよね」

 紅魅の質問に答えず鷹人が呟いた。
「そうね。それに心配性だよね。反応オーバーだし。それに、初日から潤ちゃんに思いっきり制裁受けてたね」
「あぁ……」
 潤は思い出すように笑みを浮かべた。
「前の新人来た時は目の前で寸止めされてそこでその子辞めたわねぇ」
「そのせいで大地さんに怒られたけどね」
 そこまで思い出して笑みを消し去る。
「でも桃矢くん凄いよね。潤ちゃんの攻撃避けてたし」
 紅魅の言葉に潤はそっぽむいた。
「へぇ、そんな事あったんだ」
 現場にいなかった徹が聞き返した。余計に気を悪くしたのか潤は更にふてくされる。
「手加減してたからね!」
「でも、さっきだって襲撃者の警告してくれたし」
「警告?」
 徹が首を傾げた。
「うん。扉開ける前から、襲撃者だって分かってたみたい。なんでかしらないけど」
 黙ってそれらの事を聞いていた鷹人はぽつりと呟いた。

「最初からちょっと気にはなってたんだけどね……」









 煙草を吸い始めて終始無言だった当麻が口を開いた。
「君が使用人として働いていたと言う【帝都伍区】のお屋敷。小鳥遊家の事だね」
「え、ええ」
 頷く桃矢の姿を確認すると当麻はおもむろに腰を上げた。

「小鳥遊家は二週間程前。原因不明の火災にあった。火災で屋敷は全焼。軍警は放火を疑ったがそれらしい証言も見つからず、厨房の被害が大きかった事から調理中の不注意の火災ということになったらしい」
「なんですか、探偵みたいですよ」
 歩きながら話す当麻に笑って言う桃矢だが、気にせず当麻は続ける。

「軍警の報告ではその火事で小鳥遊家の家族、使用人を含め全員が死亡した」
「……」
「ただ妙なんだ。この屋敷で発見された遺体は、火災が夕方に起きた物であるにもかかわらず逃げようとした形跡が一切ない。……小鳥遊家は影でマフィアとつるんでるって噂もあったから今軍警では組織に逆らって家族、使用人ごと処刑されたって言われてるらしい」

「そして、少し前から俺がここでかくまってる男。【帝都陸区】のなんでもない路地裏で全身大火傷で発見された。軍警の八千草ちゃんが”潜って”引き出した情報によると、そいつは【亡霊】の構成員で、弟のために組織から逃げようとして、その途中で襲われたらしい。そいつが襲われたのはここに襲撃者が来た4日前」

「つまり、【帝都七区】でお前は探偵社に拾われた3日前」



 青い顔でうつむく桃矢の表情を一瞥しただけで当麻はまた滔々と続けた。

「さて、ここからが大事なとこだ」
「ま、まだなんかあるんですか?」
 顔を上げた桃矢はこちらを見る当麻の表情を見て固まった。
 いつもの気怠気で覇気のない表情とは違う。__鋭く冷たい表情。

「今言った小鳥遊家。軍警はそこの使用人名簿を把握しているわけだが……」

     、、、、、、、、、、、、
「その中に冬月桃矢という名前は無い」

「……」

「そして、大火傷の男を襲った犯人の容姿は君と共通点がありすぎる」


 そこまで言った当麻はグンと桃矢に顔を近づけた。



「君は何者なんだ」

 しばらくの沈黙。そして桃矢が口を開く。

「お、俺は……」





 しかし、桃矢の言葉は激しく開いた扉の音で遮られた。
 入って来たのは明るい茶髪の小柄な少女だった。
「せ、先生!」
「七瀬。ノックぐらいしなさい」
 先ほどまでの暗い表情が消えいつもの気怠気な雰囲気で返す。
「っていうか、煙草!一応病院なんですよ!?」
「ここは俺のプライベートルームだ」
「またそんな……」
 七瀬と呼ばれた少女は呆れたように言うがすぐにハッと我に帰った。

「じゃないです!あの人が……」
 ただ事ではない。
 当麻もそれが分かったのかすぐさま七瀬を連れて部屋を飛び出した。
「あの」
「君はそこにいろ!」
 桃矢もおもわず追いかけようとしたが当麻にそこにいろと叫ばれ廊下に一人立ち止まった。

「俺は……」











「悠馬さん!」
 七瀬が叫んだ相手はあの全身大火傷を負った男性だ。
 数日前に意識が戻って容態も安定していたはずなのだが……。

「さっき見回りに来たら様子が変で」
 今は悠馬は目を見開き喉をかきむしっている。呼吸が出来ないのだ。
「悠馬さん!」
 当麻が呼びかけるがなす術無く、
「数……馬……」
 切れ切れに呟いた言葉を最後にとうとう意識が消え、心拍も停止してしまった。 

「…………なんで、だって意識も回復して、容態だってよくなってたのに……」
 取り乱す七瀬の頭をなでながら当麻はぽつりと呟いた。

「……”生殺与奪”」

「え?」
 聞き返した七瀬はガラス窓に当たる水に気づいて外を見た。

「雨…………?」

 さきほどまで明るかったのに今は暗い雲が増え、ポツポツと雨が降り出してガラスを濡らしている。
 それを見た当麻の顔色が変わった。
「まずい——」
「せ、先生?」
 病室を飛び出していく当麻を慌てて七瀬が追った。

「先生!!」


__勘違いであってくれよ










 一人で廊下にたたずんでいた桃矢。
 


「…………」




「俺は…………」




「俺は、ってなんだよ」
「!!」

 誰もいないはずの廊下で不意に声をかけられ桃矢は身体を震わせた。
 単に驚いただけではない。
 その声に聞き覚えがあったからだ。

 震える身体で振り返るとそこには群青色の髪のガタイの良い男がたっていた。

「…………よぉ、桃矢」







「伊田隈さん……」