複雑・ファジー小説

Re: ××異能探偵社×× 【8/12up】オリキャラ募集! ( No.51 )
日時: 2014/08/14 20:47
名前: るみね (ID: 8hBaEaJR)

 
  第伍話_弐


「……よぉ、桃矢」

「伊田隈さん……」
 そう言いつつ桃矢は離れるように数歩後ずさった。

「なんで、ここに……」
「……なんで?」
 男__伊田隈路佑は不思議そうに首を傾げた。

「……迎えに来た」
「迎え……」
「そうだ。【亡霊レムレース】の仲間として」
 その言葉を聞いて桃矢は唇を噛んだ。


「……あんたらが、あんたらが欲しいのは俺じゃなくて俺の双子の兄貴だろ。俺と違って異能もあって能力にも優れた」
「……そうかもな」
 路佑は軽く肩をすくめた。

「……とりあえず、黒尾さんが待ってる」
 腕を掴もうとのばした路佑の手を桃矢は弾いた。
 その様子に路佑はしばらく訝し気に桃矢を見かえす。

「……なんのつもりだ」




「俺はもうあそこには戻らない」
 自分よりも体格が勝る相手を前に身体が震えるが桃矢は声を絞り出した。

「櫻はここにはいない」
 その言葉に路佑の眉がピクッと動いた。
「何処にいるか分からない。黒尾さんに頼まれた小鳥遊さんの家族の暗殺。あの時、火が想定以上に広がって見張りだった俺のところにまで回った。必死で逃げて逃げてそこからしばらく覚えてない。とにかくそれ以来櫻とは会ってないし生きていてもどこにいるのかもわからない」
__ただ、ここにかくまわれている男をやったのが櫻なら……

 桃矢と同じように【伍区】から移動しているいるとすればこの近くにいても何ら不思議ではない。


「……」
 黙った桃矢を怪しむような視線を向けるが桃矢はキッと顔をあげると今度ははっきりと告げた。

「だから、もう櫻のおまけの俺はほっといてくれ!」

「もう嫌なんだ、両親が死んで浮浪児だった俺らを世話してくれた黒尾さんには感謝してるけど。もう、駄目なんだよ」
 桃矢の脳裏で恐怖に戦く人の顔がかすめた。
「俺は櫻のストッパー。櫻がやりすぎないよう抑えるためだけに連れ回されて……」


「やらないと居場所がなくなるから。だから女の人も、子供も……櫻も止めなかった。皆褒めてくれたけど……」

「どんなに仲間と言われていても……一つの失敗で簡単に切られる」



「でも探偵社の人は違う。こんな身元も知れないような俺を無条件に受け入れて仲間として扱ってくれた」

「生まれて初めて、櫻のおまけじゃなくて、冬月桃矢をみてくれた仲間……」





「だから俺は戻らない。俺が帰るのはそこじゃない」

 黙って桃矢の言葉を聞いていた路佑は深く息をはくと頭をかいた。
「仕方ない……な」

 一瞬。
 路佑が羽織っていた黒いローブがはためき、その下から取り出した金棒とモーニングスターが廊下の壁と窓をぶち割った。
 激しい亀裂と破壊音、ガラスの砕ける音が響き渡った。
「ッ!!」
 思わず耳を抑える桃矢の前で路佑はまた武器を振り回しガラスを砕いた。

「……黒尾さんに必ず連れてこいって言われてんだ」

「力ずくか」
「……それでもいいけど。自発的に来るっていってもらうのがいい」
 そういう路佑と桃矢のいる廊下の端や壁沿いの扉から何事かと入院患者や見舞客が現れた。

__まさか……

 嫌な考えが頭をよぎる。
 その表情の変化に気づいたのか路佑はあいもかわらぬ無表情で桃矢を見かえした。

「ご名答……」
 そう言った瞬間、路佑の体格に変化が訪れた。
 まるで身体そのものを膨らませたように、増強される力。

「逃げて!!!」
 叫ぶ桃矢を絶望にたたき落とすかのように、何のモーションもなしに無造作に投げた金棒が一番近くにいた患者の足を砕いた。
 阿鼻叫喚。
 廊下に飛び散った鮮血と目の前でおこった出来事を把握した患者や見舞客達は逃げようと身体を捻る。しかし、それすらも逃さぬとでも言うように人間離れした脚力で距離を詰め、確実に対象を破壊する。
 殺してはいない。
 しかし、それは情けでもなく苦痛と恐怖の悲鳴を上げる者達を桃矢に見せつけるためだ。
「どうする?」
 一瞬動きを止めた路佑はそう呟くと目の前で恐怖に声も出ない少女に向かって金棒を振り上げた。

「やめろ!!」
 叫んで飛び出した桃矢は金棒を持つ路佑の腕を捕らえた。
 しかし、桃矢の体重など感じてもいないように片腕で払われた。
「ぐっ、がッ!」
 壁に叩き付けられた衝撃で肺の空気がたたき出され、一瞬息が止まる。
 咳き込む前に路佑の手が桃矢の首を掴んで壁に叩き付けた。
「ッ!!!」

「どうする?このまま来るか……」

 そう言う路佑の攻撃範囲には先ほどの少女がいる。
 少女を助けたければ、選択肢は一つだけ。

「お、俺は……」

 震える声で息を吐き出そうとした時____路佑の持っていた武器が忽然と消えた。






「!?」
 路佑の一瞬の動揺。そのわずかな隙。桃矢を掴んでいた手の力が緩み、同時に誰かに身体を支えられ路佑からひきはなされた。
 思わず咳き込む桃矢の前に一人の男が立つ。
 その足下に先ほどまで路佑が持っていたモーニングスターが折れて転がった。

「よぉ、うちの新人に随分手荒な真似してくれてるな」

 突然現れた男に路佑はフッと目を細めた。


「…………探偵社の東郷大地か」


「だ、大地さん……」
 大地はいつもと変わらない穏やかな笑みを返した。
「大丈夫か?」
「あ、はい」
「じゃあ、ちょっとその子とか他の怪我人頼む」
 恐怖に震えている少女や怪我を負った患者達をしめす。

「俺はこいつを片付ける」
 そう言った大地の声に桃矢はビクッと身体を震わせた。
 表情はいつもとかわらない。だが、その声に含まれた怒りとはなつ殺気が冷たく突き刺さる。
「病院では暴れるな」





 対峙した二人。
 体格的には路佑の方が少し勝っているか。

 路佑はしゃがみこむと悲しそうに折れたモーニングスターを拾い上げた。
「ひでぇな、俺の相棒折りやがって……」
「ならそんなもん振り回すな」
 不意に大地の姿が消え、路佑の腕の関節を狙うが攻撃は躱され、かすめただけ。そこを狙ったカウンターの金棒が大地の腕を直撃した。

「ッ!」
「大地さん!」
 軽く顔を歪めた大地に叫ぶが大地はなんでもないというように手を振った。
 見る間に裂けた皮膚が修復される。

「……」
 その様子を見ていた路佑が口を開いた。

「知ってる。その異能……」
「そりゃどうも」

 そう軽く言って腰から取り出したのは小振りな変わった形状のナイフだった。メリケンサックとナイフを合わせたような形状で、握る事で打撃と斬撃の両方に対応出来る。
「簡単には終わらない……」
 金棒を無造作に拾い上げる。
 それを見計らったかのように大地が動き、それに応戦する形で路佑も動いた。

 お互い攻撃が与えても決定打にはならない。
 力は路佑の方が上。ただ機動力と戦闘経験を加味すれば大地の方が上だ。
 しかし、ほぼ同等の近距離戦闘を得意とする者同士。そうそう簡単には決まらない。
 ただ……

「落ちてる……」
 不意に桃矢のすぐ横からそんな声がして見下ろすと当麻の助手である七瀬と呼ばれた少女が不安そうにたっていた。走って来たのか少し息があがっている。
「あ……」
「……大地さん。いつから使ってるの?」
 桃矢の動揺を気にせず必死で冷静さを見せながら七瀬が聞いた。しかし、その声には動揺が見える。
「もう、五分近いと思うけど」
「……駄目」
「え?」

「大地さんの異能、”国士無双”——能力は人間離れした身体、戦闘能力。けどただの強化能力は異常に上がる運動速度に身体がついていかなくて使用後のダメージが大きい。けど大地さんの異能は同時にある高い回復能力で破壊される筋繊維をすぐに修復して身体への負担を最小限にし、最大限の攻撃力を得られるの」


 路佑が攻撃を仕掛けるがお互い攻撃を防御し合いまた距離をとった。


「けどその特異性故、異能が使えるのは__極限られた時間のみ」
「限られた……」
 七瀬の言葉に呟く桃矢に答えるように路佑が続けた。

「…………5分。」

「まいったな、随分俺の異能の事調べてるんだな」
 余裕そうに笑う大地だが先ほどに比べて明らかに傷の直りが遅い。

「タイムオーバー……」
 金棒を一回転させると手に持つ。

「ったく、時間限定の正義の味方かよって能力だよな」
 大地は自虐的に笑った。傷の回復が完全にとまった。
「異能が切れたら、いくらあんたでも無理だ……」
 残念そうに路佑が言うと驚異的な脚力で一気に距離を詰めた。


 伊田隈路佑の異能、”牛頭馬頭”は単なる身体能力の強化ではない。
 それでは七瀬が言うように使用後のダメージで動く事も出来なくなる。彼が有するのは地獄の鬼の力。多大な体力と理性を代償に、身体の筋繊維などを強靭な鬼のそれに変化させることで体格も力も常人とは全く違う能力を得る事が出来る。
 彼の力であればただの金棒の一撃すらひん死の重傷を負わせる事になる。
 その凶器が大地の頭に迫る。

 普段の相手ならばそれで終わる。
 頭をスイカのように破裂させ、糸の切れた操り人形のように倒れるのみ。
 しかし、金棒を大地に振り下ろそうとした路佑が感じたのは目の前の男に対する明確な恐怖だった。

                  、、、、、、、、、、、、、
 すぐ目の前にせまるこの凶器を見て、なぜこの男は笑っていられる。








「ただ————」


 小さな呟き。
 しかし、その言葉を聞いた路佑の全身の毛が逆立った。

__ヤバい。




「俺はそんな正義の味方ゴメンだ」



 再び大地の目に輝きが戻る。

 動いたようには見えなかった。
 ただ、路佑が振り下ろしたはずの金棒は空を切り目の前にいたはずの大地の姿も消えていた。
 身体を縮めて自分の懐に飛び込んで来たのだと把握した時にはみぞおちにハンマーで殴られたような衝撃が走り、気づけば首筋に冷たい刃が押し当てられていた。

「……ッ」

「悪い。お前の任務。失敗だ」



 冷たい言葉を最後に路佑の意識は暗転した。