複雑・ファジー小説
- Re: ××異能探偵社×× 【執筆中。】オリキャラ募集! ( No.57 )
- 日時: 2014/08/19 07:22
- 名前: るみね (ID: 8hBaEaJR)
第伍話_肆
身体が勝手に動いた。
大地に迫る禅十郎の手を見て、咄嗟の反応だった。
立ち向かおうとしても結局守られてばかりでなにもできない自分に盾という利用価値でも与えようとしたのかもしれない。
しかし、何かがその心理を止めた。
、、、、、、
__お前のやる事はそれじゃない
その言葉で何かが外れた。
桃矢が気がついたとき、目の前にあったのは腕から血を流し、目を輝かせる禅十郎と驚いている大地や七瀬の姿だった。
、、
「おいおい、聞いてねぇぜ……桃矢」
「桃矢くん、それ……」
やけに響く七瀬の言葉で自分の身に起きた変化に気づく。
音が聞こえる。鼻が効く。いままで感じていた五感全ての感度が増したようだ。
そして……
「なんだこれ……」
変化した手に思わずそんな言葉が出た。普通の手とは違う。獣の手のようだが、鉤爪を足して二で割ったような特殊な形だ。
「なんだお前、自分の異能に驚いてんのか」
唖然としている桃矢に禅十郎が声をかける。その言葉で我にかえった。
「俺の異能……」
「まぁ、なんにせよおめでとう、桃矢。これで桃矢も異能者だ」
冷やかすような口調だがその表情には桃矢を侮っている様子は無く極めて冷静だった。
__異能者……
軽く変化した手を握る。
「……大地さん。ありがとうございました」
その言葉に何か言おうとしたが桃矢の表情を見てその言葉を飲み込んだ。
「七瀬ちゃんも。下がってて」
__今度は俺が、
「黒尾禅十郎____お前を倒す!」
桃矢の言葉に禅十郎は馬鹿にするように首を傾げた。
「そんな目覚めたばっかのひよっこの異能で俺に勝てるとでも?」
「……やってみなきゃわかんない!」
その力強い言葉に禅十郎は思わず吹き出した。
「はっ、いいぜ。のってやるよ。ただし相手は____」
禅十郎だけでなく廊下の影という影が蠢くと無数の黒い塊となってゆっくり立ち上がった。
「____俺の”百鬼”だ」
+
周囲に出現させた”影鬼”を操りながら桃矢に視線を向ける。
もとの動きが嘘のように機動力が増している。”影鬼”の攻撃を避けながら時折接近して仕掛けてくる余裕さえ。しかし、接近にも”影鬼”を盾に使い決して近づけさせない。そうやって桃矢の動きを観察する。
__主体は変化した手での斬撃。
盾にした”影鬼”を切り裂く姿に目を細める。
すぐにその場に”影鬼”を仕掛けるがその前に逃げられた。
__力は東郷にも及ばない。が、
フッと殺気を感じ咄嗟に背後の”影鬼”を盾にする。中心で切り裂かれ溶けるように消えた。
__スピードは東郷以上か。
間違いなく大地や路佑と同じ身体能力を強化する異能。
どちらかといえば身体構造を変化させ対応する路佑に近い能力のようだが、
__路佑の鬼とも東郷の人の動きとも違う。
とらえどころのない俊敏で隙のない動き
「野生の獣だな……」
禅十郎が分析する一方で桃矢も自分の動きに驚きつつも必死に頭を働かせていた。
__この人の異能、”百鬼夜行”は自分、周囲の影から”影鬼”を作り出し操り攻撃する能力。
子供の遊びにある影踏みのように自分が踏んでいる領域の影は全て操る事が出来る。
それ故に昼間に遮るような物の無い広い敷地では自分の影の面積しか操る事が出来ないため弱く、逆にこうした影の多い屋内や夜や暗い日、影の多い路地裏では全ての影を操り”鬼”に変化させる事が出来る。
形状も自由自在で密集させる事で強度すら自由だ。
__でも、あの人の影に触れてない影は操れないし。なにより、
「自分以外の影を操ってる時は踏んでる影を逃がさないようにその場から一歩も動けない」
迫って来た”影”を踏みつけると捕らえられる前にそれを足場に思いっきりの力で飛んだ。
ほぼ水平に弾丸のような勢いで飛び出す。禅十郎が進行方向に”影鬼”を固めるが、その直前で勢いを殺すと姿勢を低くした体制のまま禅十郎を取り巻く”影”の隙間から懐に飛び込んだ。
____斬!
桃矢の手が禅十郎の胸をかすめ外套を切り裂いた。とっさに半歩引いたために重傷は避けたが服にジワッと血のシミが広がる。
__いける!
もう一歩踏み出そうとしたが背後からなにかに首根っこを掴まれると思いっきり投げ飛ばされた。
「っ!」
どうにか体制を整えて壁激突は避けられたがそれでも足にはジンジンとした痛みが走っている。あわてて前を見るが”影”は禅十郎の周囲をうろうろするだけだった。どうやら”影”の一つに投げ飛ばされたらしいというのは分かったが、
その中心に立つ禅十郎は傷の痛みなど感じていないようだった。その顔に張り付いているのは見る物を不安にさせる笑顔。
「想像以上だよ」
「まだ上手く扱えてないひよっこの異能で俺に傷を負わせるなんてな」
ぺらぺら喋る禅十郎を黙って見つめる。
長年下で働いて来たからこそわかる。こういう時の禅十郎は何か隠し球があるときだ。
__でも、この異能があれば……俺も
強いまなざしで自分を見る桃矢を見て禅十郎はヘラッと笑った。
、、、
「なるほど、"桃矢の"異能はこれってことか」
その言葉に違和感を感じた。
なにかを知っている言葉。
「??」
桃矢の訝し気な表情に気づいたのか禅十郎は嬉しそうに話し始めた。
「言葉通りだよ。”桃矢としての”異能って意味」
「____どういう意味だ?」
「気づいてなかったのか? てめぇは俺に始めてあった時から異能者だった」
何を言っているのか。
桃矢が禅十郎にあったのは桃矢がが九才のとき。その頃は異能どころか身体能力もなにもかも櫻に及ばなかった。
「そんなわけ__」
「異能の名は__”君子豹変”」
「な、なんでそんな事知って……」
混乱する桃矢に禅十郎は真実を突きつけた。
、
「知ってるさ。お前から聞いたんだから。____なぁ、櫻」
「!?」
禅十郎の言葉にバッと振り返るがそこには誰もいなかった。
「……櫻なんて」
「なに言ってんだ?」
「櫻はお前だよ。」