複雑・ファジー小説

Re: ××異能探偵社×× 【執筆中】 ( No.77 )
日時: 2014/10/05 14:39
名前: るみね (ID: 8hBaEaJR)
参照: お久しぶりです。更新出来なくてごめんなさい!

  第仇話


 唐突な襲撃者にアジトは蜂の巣をつついたような騒ぎになった。
 派手な爆発と土煙ののち建物内に侵入した面々はその土煙に顔をしかめた。

「おぉ、派手にやったねぇ」
 潤が楽しそうに騒ぎを見る。
 そのすぐそばで無数の鴉が集まり巨大な翼に包まれると一瞬で牡丹が現れた。
 牡丹の鴉は身体の一部であり幻影だ。実態を持つ影の鴉と牡丹の身体そのものを鴉それぞれに変化させることができ、現在は身体の鴉は牡丹に姿を戻しているが周囲ではまだ影の鴉がアジトを飛び回っている。
 周囲にいるのは潤、創平。まだ本調子じゃない大地と連絡係の徹、太一は建物から少し離れた場所にいる。
 で、先に侵入し内部を混乱させ守りが崩れた隙に牡丹がアジトの入り口を破壊したのだが、

「爆弾なんて何処隠してたんすか」

 あまりに強引で派手な潜入方法にさすがの創平も顔をしかめた。
「軍警の手伝いした時にちょっとねぇ」
「……軍警がそんなもん一探偵社にくれる訳ないだろ」
「ぱ、パクったんすか!?」
____創平。姐さんに常識当てはめちゃ駄目。
「いいじゃない、こういう時のためでしょ」

「また随分堂々と侵入してくれたもんだな」
 苛立たしい声と共に三人の目の前に赤茶の髪を振り乱した陣刀焔が立っていた。
 混乱したと言ってもそこは裏街を仕切る有力組織だ。
 牡丹が影として放っていた鴉はほぼ狩られ、焔の背後にも数人の武器を構える男が立っている。
「お前らを裏切った犯罪者のために随分と大喪な事してくれんじゃねぇか」

「なぁに、あたしらは仕事してるだけだよ。その上でちょっとここのボスってのが気に喰わないから一発殴ろうと思ってさ」
 不敵な笑みと共に拳を固める牡丹に背後に立っていた創平や潤もつられて笑った。
「そんな事でちっぽけな帝都の探偵社が裏街トップの【亡霊レムレース】に喧嘩売るってのか?」
 呆れた声に創平は肩をすくめた。

「いやいやぁ、そんなの。あんたら潰しちゃえばいいだけのことっすよ、【ね】!!!」

 語尾の言葉とともに狭い通路を強烈な音の衝撃波が抜けた。
「ッ!」
 不意の圧に思わず焔が目を細めたがその風に押されるように飛んできた気配に気づいて急いで防御構えをとった。

 刃同士がぶつかる軋んだ音と同時に目の前に迫っていた潤と視線がぶつかった。

「あ〜ん、もうちょっとだったのに♪」
「可愛い子ぶっても全然惹かれネェんだよ」
 潤の異能”快刀乱麻”で刃に変化した爪を自らの腕から出現させた刃で受け止めた焔は薙ぎ払うようにして距離をとった。
 再び変化した牡丹の鴉にまぎれ創平も姿を消していて、焔の背後にいた男達も通り過ぎ様に吹き飛ばされたり、壁に叩き付けられたりして意識を失っていた。

「ったくよぉ、マジでなんのつもりだ」
「だから、さっき創平が言ってたじゃない♪」

「【亡霊レムレース】を潰してやるの」

 その声には相手にしている組織の危険性などまるで感じていないようで、思わず焔は吹き出した。

「OK、OK。お前らが冗談半分じゃなくて、たった一人の犯罪者のためにがちなのは分かった。でもよぉ、知ってんのか?」
「……なにを?」
 きょとんとする潤に焔は猟奇的な殺気を向けた。

「俺らの邪魔した野郎はタダじゃすまないんだぜ?」

「望むところ」


 不敵な笑みを浮かべ二人の刃が交錯した。











「で、桃矢は?」
 焔を潤にまかせ、牡丹と一緒に廊下を走った創平は少し開けた場所に出ていた。
「知らないよ。あんたが適当に走るから」
「ちょっと!」
 投げやりな態度に思わず抗議の声をあげるがその声で近くにいた構成員が集まってきた。
「おっとぉ、さっそくピンチ」
 予想外の人数にさすがに冷や汗が流れるが、
「あれあれ、あなたが侵入者さんですか?」
 殺伐とした空気に似合わない暢気な言葉。
 驚いて見るとそこには腰近くまである長い茶色の髪を垂らした女が立っていた。
 年齢はもしかしたら創平と同い年程かもしれない。その天然感が漂う少女と周囲の男達の殺気にどうもつながりが持てずとまどう創平だったが、次の彼女の言葉で顔を引きつらせた。

「ええっと、私姫路彩っていいます。さっそくですけど、死んでください!」

 同時に周囲の男達が取り出した拳銃が火を噴いた。

「ちょ、【わ】【わッ】【わ】!」
 悲鳴と同時に周囲に空気の塊を放ちその圧で弾丸の軌道のずらし直撃を免れる。
 そして牡丹をひきづるように逃げ出した。
「ちょっと、戦わないのかい?」
「ナイフ程度なら複数相手でもいいですけど拳銃はちょっとまってほしいっすよ!」
「情けないねぇ」
「じゃあ、姐さんがやってくださいよっ!」
「パス」
 そう言うと同時に牡丹の身体を羽が覆い、散けると十数話程の鴉に変化した。
「せいぜい掻き回しといで」
「【姐さん】!」
 抗議の言葉は塊となって壁を抉ったが虚しく牡丹は廊下を弾丸のような素早さで飛んでいった。
 あっけにとられる創平の耳が背後の怒号を捕らえる。
 明らかに先ほどよりも人数を増している声に創平はため息をついた。

「ここは戦術的撤退っすね……」

 時折飛んでくる弾丸の軌道をそらせながら創平の鬼ごっこが始まった。











「まさか、探偵社全員で!?」

 唐突に告げられた事実に桃矢は困惑する。
「なんで。俺にはもう関わるなって」


____あのな、お前が思ってる以上に俺らはタフなんだよ。いっただろ、昔は関係ないって


 徹の”以心伝心”を通して聞こえてきた大地の穏やかな声に桃矢の目頭が熱くなった。

____修兵もそうだよな?
「黙れ、怪我人が」
 おもしろがってる大地の声に修兵がイライラと言うが、
「……まぁ、依頼分は働くさ」
 突き放しているようでそっぽをむいている修兵の方を見る。

「とにかく、【亡霊レムレース】の連中には元から迷惑かけられてんだ。当麻といい軍警といい……。このさいだから【亡霊レムレース】ごと潰そうと思ってな」

「潰ッ……!?」
 あまりにあっさり紡がれた物騒な言葉に逆に桃矢は呆気にとられた。
「おぉ、うちの新人もらっていくしてもちゃんとけじめはつけないとな」
「…………」

「修兵さん……」
「あ?」
「……ありがとうございます!!!」
 深々と下げられる頭に修兵は慌てたようにそっぽを向いた。
「ば、馬鹿!礼はここ無事に出てからにしろ」
 あわてて桃矢を先導するように歩き出すがその耳が赤い。
「はいっ!!!」


「今は創平達がアジト中混乱させてる。幹部連中もおさえてるだろう」
「でも、ホントに潰すつもりなんですか」
「俺らは陽動だよ」
「?」
 意味深な言葉に首を傾げるがその疑問を口にするよりも前に背後から感じた殺気にあわてて振り返った。

「好き勝手やってるね、桃矢」

 氷のように冷たい言葉と少し離れた位置に立つ青い目の女性が言葉を吐き出した。普段は冷静にしている彼女だが今は桃矢と修兵に対して明確な殺意を向けている。

「水無月さん」

 トウヤにそう呼ばれて水無月小夜は薄い笑みを浮かべた。

「あんたの事はずっと嫌いだったよ。だから戻す事にも反対したのにね……」

 淡々と紡がれる言葉に桃矢は数歩後ずさった。
「まぁ、禅さんの決定は絶対だからね。それでもこの事態は許せない」
 サッと手を振ると小夜の両手がまるでクリスタルのような透明なガラス質なものに変化した。
 その様子を見て修兵が銃をかまえる。

「裏切り者は汚らわしい……!」


 小夜の重心が下がり、弾丸のような勢いで桃矢にむかって飛び出してきた。
「ッ!」
 必死にのけぞり、ナイフのように突き出してきた小夜の手刀を躱す。
 攻撃を躱され小夜の動きが一瞬鈍る。そこを狙い修兵の銃弾が小夜の足の関節を狙った。
 しかし、放たれた弾丸は小夜の足を貫通する事無く小夜の蹴りによってひしゃげた。
「おいおい、マジかよ……」
 平然としている小夜に思わず突っ込む。

 小夜はフッと笑うと身をひこうとしていた桃矢に容赦なく蹴りを叩き込んだ。
 肺を潰されたような衝撃で息を一瞬とまる。しかし咳き込む余裕も無く小夜の足払いで体制を崩されうつぶせに倒れた。
「ぐっ!」
「桃矢ッ!」
 修兵が助けに入ろうとするが小夜の靴が桃矢の頭にのせられたのを見て思わず足を止めた。
 肝心の桃矢も倒された衝撃で軽い脳震盪でも起こしたのか気を失っている。
 修兵の弾丸も正確に小夜を狙うが小夜の急所は全てクリスタルに変化され弾丸はヒビを入れる事すら出来ない。
「弾丸なんかじゃ効かない」

「あなた女に変わる以外の能力ないのね」
 小夜の言葉に修兵のこめかみに青筋が浮かぶが桃矢の頭にのせられた足でうかつに動く事が出来ない。

 微かな笑みを浮かべた小夜に気づいた修兵が防ごうと動くが、小夜の方が速かった。

「裏切り者には死を」
 桃矢の頸椎を狙った強力な蹴りが狙う。が、


 その足を小夜の足が離れた隙を狙って体制を直した桃矢の腕が抑えた。
「ッ!!!」
 想定外の動きに小夜の顔に始めて焦りの色が浮かぶ。




「はぁ、あんたのおかげで桃矢が寝てくれて、ようやくオレが出て来れた」
 違和感を感じる言い回しに小夜の表情が変わった。

「あんた………………」





「冬月……櫻……!」