複雑・ファジー小説
- Re: 【続編】ウェルリア王国物語-摩天楼の謎- ( No.3 )
- 日時: 2015/10/15 19:46
- 名前: 明鈴 ◆kFPwraB4aw (ID: M0NJoEak)
【第一章 再会編】
〜〜第一話:邂逅の朝〜〜
ボーーッ。
遠く離れた港の方から、船の汽笛の音が聴こえる。
1時間に1本の連絡船が到着したのだろう。
キリは、かすみ草の花束を両手いっぱいに抱え、思わず後方を振り返っていた。
誰かに呼ばれたような気がして、それが気のせいであったことに思わず苦笑する。
深呼吸をして気を取り直したキリは、あまり整えられていない道草を踏みしめながら、島の中心にある丘を目指していた。
なだらかな丘を行くと、突然開けた場所に出る。木々に囲まれたその場所は、人口約400人のラプール島の共同墓地であった。
近頃、利用者はほとんどいないのか、丘の周辺に人の気配はなかった。
キリはそれでも、毎日欠かさず花を手向けに丘まで足を運んでいる。
自身を育ててくれた恩を返すかのごとく、キリは1人で彼女の墓を手入れしていた。
その日。
キリがいつも通り墓の前までやってくると、そこには既に花が添えられていた。
——誰?
ふっと顔を上げると、木陰から見慣れた影がちらついた。
「元気に、してたか」
ぶっきらぼうなその物言い。
どこか高貴な雰囲気を持つその人物はーー
紛うことなき彼であった。
「アス……カ?」
「迎えに、来たぞ」
躊躇うように発せられたアスカの言葉にキリは思わず赤面していた。
『迎えに来た』
確かに彼はちょうど半年前のあの日、キリを迎えに行くと言っていた。
しかし、それは、つまりのこと——
「キリ。あの日の答えを、オレに聞かせてくれ」
「あ……えっと……」
『あの日』アスカに問われた言葉。
それに答える瞬間がやってきた。
キリは「あのお、そのお」としどろもどろになってはぐらかしていたが、遂に意を決して口を開いた。
——刹那。
ガサガサッと草むらを踏み分ける音が辺りに響いた。
2人は思わず身を硬くする。
と同時に、若い青年がのんびりとした雰囲気をまとって木陰から姿を現した。
「おや、誰かと思えば。奇遇ですね」
「へ、え……?」
「お前っ……なんでここに…………!」
振り返った2人が目にしたのは、キンセンカの花束を抱えて立つ、イズミ=ファウシュティヒの姿だった。
彼もまた、半年前にキリやアスカと共に数々の苦難を乗り越えた仲間であった。
"自称"元研究員の彼もまた、キリと同じく墓参りに来たようであった。
キリは、懐かしい訪問者にただただ驚くばかりであった。
否、最も驚きを隠せずにいたのは——
「って、アスカ王子じゃないですかあ! なんで王子がこんなところにいるんです?! ……っと、キリさん。お久ぶりです」
「イズミさん。久しぶりぃ」
「イズミっ…… お前こそ、何でこんなとこにいんだよ……!」
「いやあ、ちょっとね。……しっかし、驚きましたよ。まさか王子もお墓参りに来ているなんて」
イズミは驚きを素直に口に出すと、不服だと言わんばかりに眉をしかめているアスカをジッと見つめた。
頭からつま先まで順繰りに視線を向けるイズミの表情は、さながら宇宙人にでも遭遇したかのような驚きに満ち満ちていた。
「まさか、こんなことって……。王子もおんなじ定期船乗ってたんですね」
「かもな」
「…………ハア、参ったな……またなんだか面倒くさそうなことになりそうな予感が……」
「おい、何か言ったか」
「そんなことより王子。また勝手にお城を抜け出してきましたねっ!」
突然声を上げたイズミに、アスカは素早く後ずさりをしていた。
行動と気持ちは一致するというがまさにその通りである。
そうして思わず拳を握りしめて、アスカも負けじと大声で返す。
「なっ、なんだよ、突然大声あげたりなんかして……」
「早くお城に戻ってください、王子。このラプール島はそうでもないですけど、ウェルリア王国内は近頃物騒なんですからね!」
「そっ、そういうお前はもうウェルリア王国の兵士でもなんでもないだろうが! 得体の知れない元研究員だとかなんとかでーーオマケに、ついこないだまで牢屋入りだったろうが! そんなお前に言われる筋合いは無いっ!」
「論点をすり替えようとしても無駄ですっ! あのですね、王子はお命を狙われることがあるかもしれないんですよ? ご自分の立場を考えて、お城に戻るべきです!」
引きつった笑みを浮かべていたキリが慌てて2人の間に割って入る。
「そ、そういうイズミさんは、一体何しにラプール島まで、わざわざ?」
咄嗟について出た言葉。
イズミはキリの質問に柔らかい笑みを浮かべると、持っていた花束を抱え直した。