複雑・ファジー小説

Re: 【続編】ウェルリア王国物語-摩天楼の謎- ( No.6 )
日時: 2014/09/04 19:00
名前: 明鈴 ◆kFPwraB4aw (ID: KVMT5Kt8)

「僕はーー見ての通り、幼なじみのお墓参りです」
「……そっか。そうだよね。わざわざお墓参りに来てくれてありがとうゴザイマス」
「いえいえ。彼女とは昔一緒に暮らしていましたからね。やっと挨拶に来れました」

キリは思わずはにかんだ。

「ところでイズミさん、その黄色い花は?」
「これですか? これは"キンセンカ"です。綺麗でしょう。キリさんの持ってきた花は"かすみ草"ですね。確か、花言葉は"感謝"ーーですか」
「うん。そうだよ……沢山お世話になったし、【彼女】には色々と教えてもらったしね」

しばしの沈黙ーー
そこですかさずアスカが声を荒げた。

「いやっ……そもそもなんでイズミ1人でひょっこり現れてんだよ。政府側に反抗して、牢屋に入れられてただろーが」
「確か、そんなことになっていましたね」

イズミはまるで独り言のように呟いた。

「いや、自分自身のことだろ」
「いやはや……痛いところを突いてきますね【王子】。流石さすがです」
「……当たり前みたいなトーンで【オレ】を持ち上げるな」
「だって【王子様】ですもん。この国の、ね」
「お前はっ……相変わらず……」
「スミマセン、少しからかってみたかっただけです。けど……それを抜きにしたって、アスカ王子の言うとおりですよ。あの日からおよそ半年間、僕は姉とともに、ウェルリア兵さんたちから尋問を受けていました。牢屋に閉じ込められていてーーそれで、今日やっと解放されたって訳です」
「そりゃ現国王に敵対心を抱いていたやからを政府が野放しにしておく訳がないからな」
「しかも僕自身、国を相手に結構なことをやってしまいましたから。それなりの処罰を受けないといけなかったんですよね」
「……にしてもさ」

そこでアスカが唸るように言葉を発した。
キリが隣で大きく首をかしげる。

「そんな重要参考人を、半年で返すっていうのは……その、なんか、おかしくないか」

その言葉に、イズミは豆鉄砲を食らわされたように目を丸くした。
それから、笑みを浮かべて、こうぼやく。

「あの政府がーー【そんなやからをみすみす野に放つわけが無い】、と」
「だってそうだろ」
「そう、ですね」


刹那ーー
キリは己の背筋が凍った気がした。

ぞくりーーと。

不意に向けられたイズミの視線にーーキリは何故だか、冷たい刃物で頬を撫ぜられた気がした。
思わずそらしてしまった視線を再度イズミに返すと、その表情は打って変わって、いつもの微笑みが浮かんでいた。
困ったような、そのような意味合いを含んだ笑み。

ーー気のせい、かな。

先ほどの表情を見てしまったせいであろうか。
イズミの笑顔の裏に、何かあるのではないかと勘繰ってしまう。

否、

ーー気のせい、だよね。


不安に感じながらも、そう思うことにしたキリであった。