複雑・ファジー小説

Re: 【続編】ウェルリア王国物語-摩天楼の謎-【第一話 了】 ( No.13 )
日時: 2014/07/05 16:45
名前: 明鈴 ◆kFPwraB4aw (ID: OfnHQlxu)

【第一章 再会編】
〜〜第二話:村の秘密〜〜


国境を越え、キリ、アスカ、イズミの3人は連れ立ってルルーヴ村に足を踏み入れていた。
村全体に朝靄あさもやがかかっており、かろうじて足元に敷かれた灰色の石畳が見えるほどに視界が悪かった。

「こ、この中に入るの……?」

思わずキリはそう声をあげていた。
一寸先は闇ーーとはよく言われるが、キリはほとんど何も見えない霞んだ視界に、一抹の不安を抱いた。
得体の知れない何かが潜んでいるような気持ちに駆られる。

「……ひとまず、村の様子を見て回りましょうか」

イズミの言葉に同意して、一行いっこうは道なりに歩き始めた。
朝方のひんやりとした冷たい空気が、ぬるりと肌を撫でた。


ルルーヴ村はおおよそ600人の村民が暮らしている小さな村だ。それでもキリの住んでいるラプール島よりかは少し大きいものである。
そんなルルーヴ村を当てもなく歩き回っていたキリたちであったのだが、時が経つにつれて、3人共に奇妙な違和感を感じ始めていた。


「人の姿が……無い」

ほとんど一本道であったのにも関わらず、ここに至るまで村民の姿は一切見当たらなかった。
その道の両脇にはきちんとレンガ造りの家々が立ち並んでおり、町に誰も住んでいないということではなさそうだ。
だが、それにしても、だ。
町には朝靄あさもやがかかってはいるが、それほど早い時間帯でもないので、人通りが極端に少ないのは不自然である。



「……みんな家に閉じこもっちゃってますねえ」

ようやく口を開いたイズミは、そのようなことを述べた。キリが振り返ってイズミを見る。

「まあ、噂通りですがね」
「外出てたら、今までの人たちみたく、行方不明になっちゃうから……とか?」
「あっはっは。んな怖いこと言うなよキリ……」

キリの一歩後ろを歩いていたアスカはそう言ってーー刹那、視線を感じた。
思わず身震いをしてから、はっと天をあおぐと、そこには大きな塔がそびえ立っていた。
いわゆる、摩天楼と呼ばれる類の建物である。

「なんだ、この建物……」

もやが少し晴れてきた。
それでも、摩天楼の頂きは何処にあるのか、検討もつかない。
思わず建物に対する疑問を口にしたアスカに、イズミは即座に答えていた。

「ルルーヴ村の中心部に位置する時計塔のようですねえ。それにしても……村の規模にしては、随分と大きいですが……」
「それはなア、【お天道様】に生贄を捧げるためなんじゃて」

突如として響き渡った老婆の声に、キリは反射的に、ひいいいっと悲鳴を上げていた。
イズミとアスカも、ギョッと目を見開き、突然の出来事に警戒心で身を固めた。
そうして、声がした方を注意深く見やる。
とーー

「ひぇっひぇっひぇ。びっくりしたかえ?」

耳障りなほどかすれた声がして、瞬間、薄く開けた視界の先に、老婆が姿を現した。
黒いローブに身を包み、その下にかろうじて見え隠れする腕は枯れ木のように細かった。
痩せこけた顔には頬骨がやけにくっきりと浮き出ており、くぼんだ目はギョロリと3人を見据えていた。



ハンドルネーム後ろ付けるの忘れてた(^_^;) ( No.14 )
日時: 2015/06/03 11:20
名前: 明鈴 (ID: hBEV.0Z4)

キリは尻餅をついていた。
逃げ腰の姿勢になって、懇願する。

「お、お、オバアチャンん……脅かさないでええ」

恐怖のあまり、笑うべきなのか泣くべきなのか混乱した表情を見せるキリに、老婆は満足そうに肩を揺すって喉の奥をひきつらせたような奇妙な笑い声をたてた。

「ひぇっひぇっひぇ。それがワシの生き甲斐じゃい」
「……また、随分と"はた迷惑"な生き甲斐だな」
「むっ。生意気な小僧じゃな」
「アスカだ」
「名前なぞ聞いとらん」

老婆の返答に、アスカはムッと眉をしかめた。

「それでもって……腰抜け小娘こむすめに……おお、イケてる顔の青年かえ」
「なんでだ! イズミだけ、やけに別格な扱いだな!」
「なんぞ、小僧。何か文句でもあるんかいね」
「ありありだ、大有りだ! コイツはな、特に性格に難あり! 腹黒いんだよっ!」
「性格なんぞ関係無かろう」
「なんだと…! ……っ、まあ、そうだな。そういう婆さんこそ、性格に難ありだもんな」

アスカの言葉に、今度は老婆が僅かに口の端を引きつらせた。

「小僧なんかに言われたく無いわい。全く、生意気な小僧じゃて」
「おいコラっ……性格は関係無いんじゃなかったのかよっ……!」
「小僧は別じゃ」

ツーンと言い張る老婆に、アスカは思わず拳を震わせた。
一触即発。ピリピリした空気が張り詰める。
尻餅をついたままガクガクと震えていたキリが、そこでようやく立ち上がり、

「まあまあ……」

とアスカをなだめにかかった。
ここで老婆に触れなかったのは、キリの中でまだ老婆に対する恐怖心が大きく膨らみ続けていたせいである。
拳を固めていたアスカは、キリの仲裁にグッと息を詰まらせて、次に腕を組むと、そのままフンッとそっぽを向いた。

「ところで……この辺りでは見かけん顔じゃが、どこから来たんじゃ?」

老婆が素知らぬ顔で、もっともな質問を投げかける。
イズミが「ああ」と頷いて、老婆に一歩近づいた。

「隣のウェルリアからです。あの……お婆さん、先ほどのお話、もう少し詳しくお聞かせ願えないでしょうか」
「はて……なんの話だったかえ?」

唸りながら首を傾げる老婆に、アスカが再び眉をしかめて悪態をつく。

「記憶力がないのか、このバアさんは」
「フーンじゃ。残念じゃったな。この小僧がいらんこというから、全部忘れてしもたわい」
「だ、だ、ダメだよアスカあっ……!」
「なんだよ。本当のこと言ったまで……むぐっ」

アスカの口が何者かに無理矢理塞がれた。
見兼ねたイズミの仕業であった。

「あっはっは。スミマセン貴婦人、お見苦しいところを。ーー少し黙っててください王子」

小声でアスカに圧力をかけると、イズミはもやの中に存在する摩天楼を指さして、再度老婆に尋ねた。

「ほら、この塔のことですよ。お婆さんは先ほど、この塔に関してこうおっしゃっていましたよね。『お天道様に生贄を捧げるため……』とか、なんとか」
「おお、そうじゃそうじゃ」

しなびた両手をポンッと打つ。

「そうーー昔からな、この村はこう、もやのかかった町だったんじゃ」


そうして話し始めた老婆の昔話は、つまりこういうことであった。


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Re: 【続編】ウェルリア王国物語-摩天楼の謎-【毎日更新】 ( No.15 )
日時: 2014/07/07 20:51
名前: 明鈴 ◆kFPwraB4aw (ID: 5CudQAEE)

《昔々、ルルーヴ村はもやの立ち込める町でした。年中霞かすみがかっているため、陽の光が真っ直ぐ地に降り注ぎません。おかげで作物も満足に実らず、ルルーヴ村の民衆はいつも困っておりました。
そんなある日のこと、「この村に陽の光が降り注がないのは【お天道様】がお怒りだからだ」と、誰かが言い始めました。【お天道様】に生贄を捧げればこの地にも太陽が輝くだろうと、民衆は全会一致で納得したのです。
そうして、ルルーヴ村では年に一度【お天道様】に生贄を捧げる儀式が行われるようになりました。
その生贄を閉じ込めておく為に作られたのが、この摩天楼だったのです。
儀式では、呪術師に占いで白羽の矢を立てられた老若男女、大勢の人々が【生贄】と称して惨殺されました。
しかし——いつしか風習となっていた生贄制度は、ちょうど10年前に廃止されたのでした。それというのも、ウェルリア全域に【呪術師禁止令】が下され、【呪術師の力を使っていたこの制度】も、その時同様に廃止されたからです‥》

Re: 【続編】ウェルリア王国物語-摩天楼の謎-【毎日更新】 ( No.16 )
日時: 2014/09/01 09:39
名前: 明鈴 ◆kFPwraB4aw (ID: vGUBlT6.)

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「なるほどね……。では、今はその【呪術師禁止令】が発布されたせいで【生贄の儀式】は出来ず……この塔は使われていないんですか」

イズミの言葉に、

「……と、思うじゃろ?」

ヒッヒッヒ、と不気味な笑い声を立て、老婆は身体を揺すった。
今まで以上にかすれた声質で、キリたちに告げる。

「ところがナ、この摩天楼の窓からな、近頃【見える】らしいんじゃ」
「なにが?」
「オレンジ色の、ぼおっとした光る物が……」
「キャアアアアアッ!!」

瞬間、キリは絶叫していた。
先ほどからやけに反応が敏感だが、どうやら幽霊などこういったたぐいの話は苦手らしい。
隣に立っていたアスカは、その声に驚いて思わず目をまん丸く見開いていた。
イズミは老婆に対して眉尻を下げた。

「ああ……スミマセン、うるさくて……それにしてもこの村のことがよく分かりました。ありがとうございました」
「お役に立てて、なによりじゃ」
「あ、そうだ。お婆さん」

先を行こうとしたイズミが、笑顔で振り返る。

「僕たち、今夜この村に泊まりたいんですが、宿泊できる施設を教えてもらえないでしょうか」
「そうか」

老婆は軽く頷くと、ゆらりとイズミに近づいて宿泊施設への行き方を説明した。
それから間をおかずに、何故かイズミに対して匂いをぐ動作をしてみせた。
続けてペロリと舌舐めずりをして、

「やはりーー美味しそうな匂いがするのお」
「……ん?」

何やら、周囲が一気に不穏な空気になった。
初対面の人物から、「美味しそう」などと声をかけられて戸惑わない人間などいない。
キリとアスカも思わず身を固めていた。


「お婆さん、その…………どうしたんです?」

さすがのイズミも老婆の反応には参って、引きつった笑みを浮かべて目の前の老婆を見返した。
老婆は濁った眼でイズミを頭のてっぺんからつま先まで、物色するようにめまわしていた。


「青年ーー貴様、呪術師の血筋かえ」
「えっ…………」

そこで、イズミはハッと身を引いた。
この者は何故、そのことをーー

再びきりがかってきた。
ふと気がつくと、老婆の姿はそれにかき消されるように、目の前から忽然と姿を消していた。