複雑・ファジー小説

Re: 【続編】ウェルリア王国物語-摩天楼の謎- ( No.36 )
日時: 2014/08/11 12:31
名前: 明鈴 ◆kFPwraB4aw (ID: ylrcZdVw)

————そうして。
一体何段の階段を登ったのであろう。

気がつけば、先に続くはずの階段はそこで途切れていた。
突然開けた視界。その先には薄暗い空間が果てし無く広がっているように思えた。
この空間だけ何者かに切り取られたかのようにゆっくりと時間が流れているように感じる。
ついに、最上階に辿り着いたのだ。

「ここは……」

イズミの隣で、キリが大きく頷く。

「そうだよね。最上階……だよね」

ミストの老婆とやらが話してくれた昔話が2人の脳裏に蘇る。

『昔々、この摩天楼の最上階に生贄を閉じ込めてお天道様に捧げていたんじゃよ』

【生贄】という名の、殺戮さつりくーー
この圧迫された閉鎖空間で、一体何人の老若男女が惨殺されたのだろう。
考えたキリは、恐ろしくなってブルっと身震いした。

「あっ……」

つと、イズミが声を上げた。
突然どうしたというのか。

「キリさん……奥の方で何か……」

ぼんやりと奥の方で何かが揺らめいていた。
それが蝋燭ろうそくの灯りだと認識した時、2人は思わず顔を見合わせていた。
誰もいないはずの摩天楼、そこに灯りなど果たして必要なのだろうか。

「行きましょう、キリさん」

暗くて分からなかったが、最上階は意外に広い空間であった。
1階部分のスペースが四角い簡素な造りだったように、最上階も同じような造りであった。
ただ、1階部分と違うのが、その空間が壁と扉によって幾つにも分けられている点だ。
先ほどイズミが見た光は、どうやら1番奥にある部屋の扉から漏れ出たものらしい。
外界に繋がる窓は一切無いので、キリは薄暗闇の中、イズミとはぐれないようにイズミの服のすそを掴んで問題の部屋へと向かった。

コツコツという靴音のみが空間を支配し、他は静寂に包まれていた。
キリは口を一文字に結んだまま辺りをキョロキョロと見回し、見えない恐怖に神経を尖らせて己の中の恐怖心と戦っていた。

「では、開けますよ」

イズミが扉の取っ手に手を伸ばし、キリは無言でコクコクと頷く。

ギィイイイーー

軋む音というより、悲鳴に近い音を立てて扉が開く。
その先にいたのは果たしてーー