複雑・ファジー小説
- 物語が淡々としてしまう…/ _ ; ( No.60 )
- 日時: 2014/09/13 00:11
- 名前: 明鈴 ◆kFPwraB4aw (ID: 1.sXKAQL)
【第二章 捜索編】
〜〜第三話:喪失者〜〜
神父のミナト=クロノに別れを告げたキリとマルカは、小高い丘を降りて宿屋へ向かっていた。
2人で何気ない会話を交わしつつ村の中心部付近を歩いていたキリは、ふと違和感を覚えた。
「ねえ……そう言えば、村の人たちは?」
辺りは異様な静けさに包まれていた。
朝、村中を案内して貰った時には感じなかった、違和感。
キリは摩天楼の下で立ち止まって、一切見えなくなった村人の気配をさぐる。
が、キリには自分たち以外の気配を感じ取ることは出来なかった。
瞬間、マルカの顔が強張った。
辺りを素早く見回して、それからキリを振り返る。
その表情は、引きつっていた。
「もしかして……」
そう呟いて、マルカは行く先も告げずに駆け出していた。
少し遅れて、キリも慌ててマルカの後を追う。
その心中は疑問で埋め尽くされていた。
走りながら、キリは村中が死んだように静かであることに一抹の不安を覚えた。
何故こんなに静かなんだろう……
その疑問は、宿屋に着いた先で解消された。
宿屋ヴィクトの前で、数人の大人たちが肩を落としていた。宿屋の女将であるエマの姿もある。
その中で、30代ほどの女性が唇を震わせながら青ざめた表情で男性に寄りかかっていた。
瞬間、キリは理解した。
ああ、もしかして……
「また行方不明者が出たそうです」
「イズミさん……」
「キリさん。帰ってきて早々申し訳ありませんが、早いところ神隠し騒動の真相解明に乗り出さないといけませんね。これ以上犠牲者が出る前に」
「はっ。何処ぞの探偵小説、ってか」
イズミの隣に、いつの間にかアスカが立っていた。
眉をしかめて腕を組んでいる。
「アスカ王子……悪態をつかないでください。そもそも勝手に僕に付いてきたのは、王子なんですよ」
「だから人前で王子を連呼するな!」
「誰も聞いてないから良いじゃないですか。小声だし」
「 小声でもだ! ……それに、別に、ここに来たのはお前に付いてきたかったからじゃない」
「じゃあ、何でですか?」
イズミの言葉に、アスカはその口をつぐんでいた。
視線を彷徨わせ、何故か迷っているようであった。
まるで自分自身、何故だか分からないとでも言うように。
ふと目が合い、キリはイズミの背中越しに微笑んで見せたのだが、アスカは何事も無かったかのように、ふい、と目線をそらした。
「……んなもん、イズミなんかに教えるかっての」
行方不明者の捜索にあたっていた人々を尻目に、アスカは不機嫌そうに鼻を鳴らすと、そのまま宿屋に戻ってしまった。
その様子を見ていたマルカがアスカの後を追おうと固く閉ざされた扉に手をかけーーイズミに阻まれた。
「マルカさん」
「でも……!」
肩を掴むイズミの手に力がこもる。
マルカは唇を噛みしめるキリを視界に捉えた。
「……なんなんだよ。【記憶喪失】って」
吐き出された言葉は、行き場なくその場で散った。
- Re: 続・ウェルリア王国物語-摩天楼の謎-【9/12更新】 ( No.61 )
- 日時: 2014/10/09 17:35
- 名前: 明鈴 ◆kFPwraB4aw (ID: 7pjyJRwL)
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「このままじゃ、ダメだと思うんだ」
マルカにそう言われて、キリは思わず首を縦に振っていた。しかし、すぐさま右に傾ける。
「な、何が……?」
「自覚してないのかよ、キリぃ!」
喫茶店内に響き渡ったその声は、数人のお客の眉をひそませた。
「ほ、ほらマルカぁ、声が少し大きいって……」
「『何が?』じゃないよ、キリっ!」
「ま、まあまあっ。少し落ち着いてよマルカ」
「キリこそ、よく平然としていられるよな!」
宿屋ヴィクトから幾分か離れた場所に位置する喫茶店。そこに、キリとマルカは身を寄せていた。
マルカ曰く、「あの男どもには聞かれたくない」から、わざわざ宿屋から離れたこの場所を選んだのだそうだ。
「そりゃ、アスカが【記憶喪失】になったって聞いたときは、ここら辺がモヤモヤってしたけど……」
「……ぶっちゃけ、キリとアスカって、どういうカンケーなんだ?」
「へっ……?」
持っていたカップが震える。
中に入っていた紅茶が微かに波立つ。
「アスカとは……。と、【友達】だよ」
「いーや。なんかあるんだろ? アンタら」
「ぐっ……」
約半年前にプロポーズされました、とは言えまい。
重ねて、アスカが実はこの国を治める王様の子どもなのです、とも、言えない。
ぐっ、とカップの取っ手を握りしめたキリは、意を決して、固く結んでいた唇を開いた。
「そ、そういうマルカはさ、どうなのよう」
「……へっ?」
まさかそう返されるとは思ってもみなかったマルカは、思わず拍子抜けした声を発した。
「『どう』って、『何が』だよ」
「ーー神父さん」
「っげほ、ごほ……。な、ななななななっ?!」
マルカは、飲んでいたミックスジュースを喉に詰まらせたのか、必死になって胸元を叩いている。
キリはそれを見て、クスクスと笑った。
「やっぱり、好きなんだ」
「そりゃあ……」
「何?」
「【好き】だよ。けど、それは恋愛感情とかじゃなくって……」
「こーんなところにいた!」
頭上で、聞きなれた声がした。
顔を寄せ合って話に没頭していた2人は、そのままゆっくりと顔を上げるのだった。
- 参照1000突破ありがとうございます。もう、なにかしたいよね ( No.62 )
- 日時: 2015/03/15 10:15
- 名前: 明鈴 ◆kFPwraB4aw (ID: sLRBYAgN)
「あ……」
「やっと見つけましたよ。キリさん、マルカさん」
両腕を組んで2人をじいっと見下ろしていたのは、イズミであった。
片方の眉がつり上がっている。
「マルカさん、女将さんが捜していましたよ。……そしてキリさん、お仕事です」
キリとマルカは思わず顔を見合わせた。
「【神隠し騒動】の聞き込み調査ですよ。女将のエマさんと約束しましたからね。無料で宿に泊めてもらう代わりに、事件を解決すると」
「すっごーい。イズミさん、探偵みたい」
「言ってる間に時間はどんどん経つんです、キリさん。さあ、行きますよ。宿屋でアスカおう……んん。アスカ君が待っています」
「うん。あの、でも……」
「行っておいでよ、キリ。あたしはもう少しここでゆっくりしていくからさ」
席を立ったキリは、イズミに背中を押される形で喫茶店を後にしたのだった。
店を出る直前にちらりとマルカを見ると、マルカは2杯目のミックスジュースを飲みながら、ひらひらとキリに向かって手を振りかえすのであった。
+++++++++++++
「遅い」
宿屋ヴィクトに着くなり、アスカから一蹴された。
弁解の余地なく、キリはシュンとうなだれた。
「ごめん……なさい」
「さ、イズミ。行くぞ」
アスカはそう言うと、そのまま真っ直ぐ外へと続く扉へ向かう。
「王子。どこに行くのか、もう決めているのですか?」
「お前たちが来るまでの間に、だいたいの目星は付けた。ひとまず、被害者の家族に聞き込みをするのが妥当じゃないか?」
「イズミさん、なんか本当に探偵小説みたいな流れだね」
「キリさん……他人事みたくワクワクしないでください。僕にとっては自分の人生がかかっている重要な任務なんですからね」
「ごめんごめん……」
「僕の明るい未来のためにも……僕にはキリさんが必要不可欠なんです。分かってくれますよね」
「イズミさん……で、でも私っ……」
「……。…………おい、イズミ」
キリとイズミが声のした方を振り返ると、アスカが腕を組んで扉の前で仁王立ちしていた。
額には青筋を浮かべている。
「何やってんだ。早く行くぞ、イズミ」
「ハイハイ」
ペロリと舌を出して、イズミが肩をすくめる。
そうして、やっとのことで聞き込みを始めた3人は、その先で1人の老人に出会ったのであった。
- Re: 続・ウェルリア王国物語-摩天楼の謎- ( No.63 )
- 日時: 2014/10/12 08:40
- 名前: 明鈴 ◆kFPwraB4aw (ID: M0NJoEak)
その老人は「イルマ」と名乗った。
【神隠し騒動】最初の犠牲者ーーその唯一の肉親であった。
「お前さんら、この村に伝わる言い伝えは、知っておるかね」
イルマ老人の自宅を訪ねたキリたちは、いきなり玄関先でそのような質問をぶつけられた。
戸惑っているキリたちをよそに老人が語り始めたのは、この地に古くから伝わる言い伝えであった。
《昔々、ルルーヴ村は靄のかかった町でした。そのため、年中霞がかって、陽の光が真っ直ぐに地に降り注ぎません。作物も実らないため、ルルーヴ村の民衆はいつも困っておりました。
ある時、「この村に陽の光が降り注がないのは、お天道様がお怒りだからだ」と誰かが言い始め、お天道様に生贄を捧げればこの地にも太陽が輝くだろうと民衆は納得したのです。
その生贄を閉じ込めておく為に、民衆は村総出で塔を建てました。それは後に摩天楼と呼ばれる、それはそれは高い高い建物でした。
お天道様に捧げられる生贄は、呪術師が毎年占いで占って決められ、老若男女問わず、大勢の人々が捧げされたのでした》
「ーーと、こういう話じゃ」
「お婆ちゃんが言ってた話だ……」
「ミストの婆さん、かの?」
イルマ老人の言葉に、キリは思わず拍子抜けした表情で聞き返していた。
「お婆ちゃんを知ってるの?」
「ここらじゃ有名じゃよ。亡霊らしい、とな」
「……じゃあ、や、や、やっぱりアレって、信じたくは無かったけど……ゆ、ゆーれー……なの」
大して寒くもないのにガタガタと震えるキリの肩をポンポンと叩いて、イズミは苦笑した。
そうして、ふと疑問を口にする。
「そもそも、その生贄を捧げようと言い出したのは、何処の誰なのです?」
老人は首を振った。
「それが、わからないんじゃ」
「わからない?」
老人は道端を覗き込むように左右に首を振ると、玄関の扉を開けて家の中へ招き入れてくれた。
部屋の中は漆喰で塗り固められており、煤けた暖炉が独り暮らしの侘しさを物語っていた。
「ワシも長いこと、この地で育って、この地で暮らしておるけどな。何処の誰が言い出したのか、知らないんじゃ」
「そう言えば、どの文献にも載っていないって神父さん言ってた」
「神父さん……?」
「そう。この村の神父さんだよ」
「ミナト先生じゃな」
老人はキリの言葉に同意すると、居間のソファにキリたちを座らせた。
自身は窓辺の安楽椅子に身を預けると、懐から木でできたパイプを取り出して静かに煙を吸い込んだ。
吐き出されたソレは天井に向かって緩やかに立ち上った。
「ただ、その儀式に関してワシが知っていることと言えば、その当時から呪術師に頼んで毎年1人、生贄を決めていたってことじゃな」
イズミの眉がピクリと動いた。