複雑・ファジー小説
- Re: 続・ウェルリア王国物語-摩天楼の謎- ( No.66 )
- 日時: 2015/03/07 12:33
- 名前: 明鈴 ◆kFPwraB4aw (ID: jwGMIFov)
「呪術師……ですか」
「ああ」
「……で、でもでもっ、『呪術師』って確かウェルリア国王によって禁止令が出されたんじゃなかったっけ」
「ちょうど10年ほど前の話じゃな。そう……キリさん、と言ったか。お前さんの言うとおりじゃ。呪術師禁止令が出てから、この村で生贄を捧げる儀式も一緒に禁止された。あの儀式は呪術を使って生贄を選んでいたから、国側から儀式自体を禁止されたんじゃ。儀式を禁止されて不安にかられた村人は少なくない」
「なるほど」
イズミがお茶をすすって、老人の言葉に妙に納得した様子で頷く。
「だから、ですか。この村の人々が我々のことを良く思っていないのは」
「え、そうなの?」
「気づいてなかったのか、お前」
ソファに我が物顔で足を組んでいたアスカが、キリを一瞥した。
キリがぶんぶんと首を振ると、アスカは深いため息をついた。
「この村の人たちは、まるで腫れ物にでも触れるかのごとくオレたちに接している。もしくは、全く関わりを持とうとしていない。……オレはてっきり、神隠し騒動のせいで余所者に対して物凄く敏感になっているのかと思ったんだけど……」
「ウェルリア国王のことをよく思っていない村人が多いのは、まあ、そういうことじゃな」
「【ウェルリア国王のせいで儀式を中止せざるを得なくなった。】だから、村は活力を失い、おまけに神隠しが横行している……ウェルリア国王のせいで」
「ああ。皆そう思っておる」
そうして少し腰を浮かして「紅茶のお代わりはいるか?」と老人はイズミに問いかけ、イズミは微笑んで空のカップを差し出した。
紅茶を注ぎながら、老人は眉を顰めたまま話を続けた。
「最近になって反政府軍が力をつけてきたとかで、村人も躍起になっておる。そんなさなかに【神隠し騒動】じゃ。無事に帰ってきた子どもも一部の記憶が抜け落ちた状態で見つかるので、村人たちは恐れて、自分たちが連れ去られないようになるべく外出しないというわけだな」
室内の温度がわずかに下がった気がした。
誰も何も言葉を発さない。
ただ、赤々と燃えていた薪が乾いた音を立てて、爆ぜた。
- Re: 続・ウェルリア王国物語-摩天楼の謎- ( No.67 )
- 日時: 2015/04/16 08:09
- 名前: 明鈴 ◆kFPwraB4aw (ID: CPfMtcyT)
そんな中でキリは唇を噛み締め、次に何をどう発言しようか悶々としていた。
口火を切ったのは、イズミであった。
「その、神隠し騒動で行方不明になった方々の共通点はあるのでしょうか」
「ふむ……」
唸った老人は、しばらく宙を睨んでからイズミに向き直った。
「ワシの孫も含めて……未成年の子が多いの」
「なるほど。ちなみに、実際に行方不明になって無事に帰ってきた方は、あなたのお知り合いにいらっしゃいませんでしょうか。もしよかったらお話が聞きたいのですが」
すると、老人は驚いたかのように目を見開いて、3人の顔を数秒ずつ凝視した。
思わず3人も、老人の顔を食い入るように見つめ返す。
「知ってるもなにも……お前さんらもよく知ってると思うがな。あの子だよ。マルカ、と、言ったかのう」
「マルカが……?」
キリたちは宿へ戻ると、すぐさまマルカの元へ向かった。
「…………予想外でした……」
宿屋へ帰る道中、イズミが一言そうつぶやいた。
その言葉にキリもアスカも応えはしなかったが、胸の内で同じようなことを思っていた。
マルカは『神隠し騒動』の被害者だったーー
誰も好き好んで被害者であると公言することはない。
しかし、今思い返せば、明らかにマルカは神隠し騒動の件を避けていた。触れることはなかった。
それは周囲が気遣ってのことだったのか、マルカが本能的に避けていたのか定かではないが。
「とにかく、マルカさんに直接聞きましょう」
「うん。隠してたって訳じゃないと思うけど……」
ここへ来て、やっと神隠し騒動の片鱗掴めた。
こんなにも近くに転がっていただなんてーー
半ば期待を膨らませて帰宅したキリたちだったが、宿屋に着いた彼女たちを待っていたのは全く予想だにしない現実であった。
マルカの姿は、そこには無かった。
【第二章 完】