複雑・ファジー小説
- Re: 続・ウェルリア王国物語-摩天楼の謎- ( No.100 )
- 日時: 2015/05/15 09:31
- 名前: 明鈴 ◆kFPwraB4aw (ID: Xza5vGOz)
「悪魔と取引をしていたーーその昔、ルルーヴ村で執り行われていた生贄の儀に関わりの深い何者かが、アスカ王子を狙ったんです」
「待って。ちょっと待って」
己の発言も何もかもを否定するように、キリは大きく頭を振った。
「確かに、生贄の儀が禁止されて一番嫌な思いをしたのは、その人だったのかもしれないよ。けど……その儀式は、もう12年前に終わったんでしょ?」
次々と疑問が溢れでてくる。
「儀式が無くなっても、今も普通にルルーヴ村はやってこれてるじゃん。生贄の儀なんてそんなことしなくても……」
「それが……そうじゃないかもしれない……なんてことは?」
「…………どういうこと?」
「変なところで察しの良いキリさんのことです。もう、分かってるんじゃないですか?」
「…………それって、今も【生贄の儀式】が続いてるってこと……?」
キリが掠れた声でイズミに尋ねた。
その顔は怪訝そうに眉をしかめている。
「あくまで表向きに禁じられているだけなんですよ。このお婆さんのように、裏でこっそり呪術師している人なんて、実は結構いるもんです」イズミがジュリアーティを見る。
「最近、反勢力が拡大していて、国の規制も上手く行き届いていないようですしね」
老婆は身じろぎ1つしないで、ギロリと鋭い眼孔をイズミに向けた。
乾いた笑い声を立てて、イズミが頭をかく。
「あはは、失敬失敬……けど、まあ、そういうことですよ」
「じゃあ……つまり最近ルルーヴ村で起きていた沢山の行方不明事件は、生贄の儀式のための、生贄を捕まえるための物だったってこと……?」
「その通りです。賢いですね、キリさん」
「え、えへへ……」
「現在も【生贄の儀式】が続いている。そしてそのやり方も、摩天楼の最上階に生贄を閉じ込めるという、昔と全く同じものだ」
「……」
「さてーー」
すう、と息を吸い、イズミが改まった口調でキリに向かい合った。
「ここからは僕とそこのお婆さんの見解なのですが」
「…………?」
「昔とやり方が変わらない【生贄の儀式】。当然、中心となっている人物は、呪術師な訳だ。しかし、僕が思うに、あの村にはもう呪術師はいない」
「じゃあ、誰が儀式を続けてるっていうの……?」
キリが不安そうに眉尻を下げてイズミに尋ねたが、イズミは口を堅く結んだまま、その後一言も言葉を発さなかった。
キリはやきもきして、机越しにジュリアーティを見た。
ジュリアーティは何もかも見透かした様子で、腕を組んで、ただただ座っていた。
なんとも言えない妙な空気が、3人を包み込んだ。
居心地の悪さに、キリはもぞもぞと身体を動かした。
試しに、もう一度イズミに尋ねてみる。
「その、儀式を続けてる人って、私も知ってる人……?」
「少なくとも、キリさんが知らない人物ではないですよ」
一層、キリの脳内が疑問符で埋め尽くされる。
イズミはジュリアーティを見つめると、溜め込んでいた重たい息を吐き出した。