複雑・ファジー小説
- Re: 続・ウェルリア王国物語-摩天楼の謎- ( No.103 )
- 日時: 2015/05/18 01:11
- 名前: 明鈴 ◆kFPwraB4aw (ID: 0r0WCIJk)
「……復活したんですよ。呪術師ハノイと、彼女と契約を交わした悪魔がね」
誰かが息をのむ音が室内に響いた。
「じゃ……じゃあ、今、アスカはっ……?!」
「恐らく、奴らの巣窟である摩天楼に行ったのでしょう。でも大丈夫です。焦らずとも、奴らは夜にならなければ動けないはずだ」
「摩天楼……だね。分かったよ。行こ、早く行こう! イズミさん」
キリは勢いよくその場で立ち上がると、正面のジュリアーティにまくしたてるように言った。
「お婆ちゃんっ、ありがとうございました!」
笑みを浮かべる老婆に背を向け、そのままイズミを引きずるようにして、キリは喫茶店を後にしたのだった。
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喫茶店を飛び出したキリたちに、突如バカでかい声が突き刺さった。
「ああ〜〜っ! イズミぃ!」
2人が揃って振り返ると、そこにいたのはウェルリア兵Aクラスのリーク=シュヴァリエであった。
右手の人差し指をビシッと突き出したまま狼狽えた表情を浮かべている彼は、今日は白の半袖シャツに、カーキ色のカーゴパンツを着用していた。
普段ウェルリア兵の制服に身を包んでいる彼にしか出会ったことの無いキリはその姿に面食らって、思わずイズミを振り返った。
イズミは動揺を見せずに、ニコニコと笑みを浮かべている。そうして、ニコニコしたままリークに声をかけた。
「おやあ。お久しぶりですね、リークくん。こんなところで会うなんて、奇遇ですね」
「どっ、どうして、イズミ……お前が牢屋からこの世にカムバックしてんだよ! まさかっ、また懲りずに脱獄したのかっ?!」
「やだなあ。いつも脱獄してるみたいに言わないで下さいよ」
「ウェルリア兵時代に何度も脱走してたろ! 俺、お前と同じAクラスの時から、ちゃあんと見てたんだからなっ!」
「まあまあ、人を問題児扱いしないで下さい。今回は脱獄したんじゃありませんよ」
「何を言ってやがる!」
「ーー知ってるくせに」
「…………まさか」
力んでいた拳を振り解いて、リークがキリをじっと見つめる。
「イズミ……モトロの爺さんに頼まれたのか」
「あまり余計な口出しはしないでくださいね」
ワントーン落とした2人の会話に、キリは首を傾げるしかなかった。
そうして、一息ついたキリは、リークに疑問を投げかける。
「そういうトゲトゲ君は、なんでここにいるの? ウェルリア兵じゃなかったっけ」
「俺はトゲトゲ君じゃないっ。リークだ!」
キリの質問に正しい名前を名乗ってから、リークはガシッと腕を組んだ。
「聞いて驚くなよ。俺は有給休暇を使って、行方不明になってるフィアルを捜してるんだぜ」
『有給休暇』という言葉が引っかかったキリだが、ひとまず「なるほど」と頷いてみせた。
隣でイズミが声を上げた。
「これまた奇遇ですね。実は僕たちも今、アスカ王子を捜してまして」
「アスカ王子……だと?」
「ハイ。困ったことに、またお城を抜け出しちゃったみたいでね」
ウェルリア兵士にアスカのことを話したのは、アスカ王子が城から逃げ出したことが既に城中に知られているからであった。隠すよりも、公に王子の話を振ることによって、リークから王子に関する何らかの情報が掴めたらラッキーだ、というイズミの楽観的思考の末の結論であった。
リークはそのような思惑になど当然のように気づきもせず、一呼吸置いてさらりと答えた。
「アスカ王子なら、さっきそこで見かけたぞ」
2人は思わず顔を見合わせた。
その表情は意表を突かれた様子で目を大きく見開いている。
「ど、どこ?!」
「そこの路地裏の角だ。なんか訳わかんないこと喚いたと思ったら、走ってどっか行っちまったよ」
「キリさん!」
「やっぱり、摩天楼だよっ……!」
リークには構わず、2人は跳ねるようにしてその場から駆け出した。
リークは訳がわからないというようにその様子をしばらくぼんやりと見ていたが、反射的に声を上げながら2人を追いかけていた。
そうして一行は、再びルルーヴの地に足を踏み入れることとなったのである。