複雑・ファジー小説

Re: 続・ウェルリア王国物語-摩天楼の謎- ( No.104 )
日時: 2015/05/18 00:30
名前: 明鈴 ◆kFPwraB4aw (ID: 0r0WCIJk)

【第四章 真実への序章編】
〜〜第二話:不審〜〜


「……っはあ、はあ。突然どうしたんだよ、イズミに……ファーン家の皇女さんよう」

辿り着いた先で、3人は大きく肩で息をした。
陽はすでに傾いて、建物をオレンジ色に染め上げていた。
摩天楼の前までやって来たものの、それ以上建物内に立ち入ることは出来なかった。
扉の鍵はしっかり施錠され、何者の侵入も拒んでいた。
無理やりこじ開ける事も出来たが、さすがに村民の目に晒されながらやることではない。
目の前に立ち塞がる頑丈な扉が、オレンジ色の陽の光を受けて鈍く反射していた。

「……ひとまず、宿に帰りましょうか」

誰かがそう言わなければ、動こうにも動けなかった。
イズミの言葉にキリはこくりと頷いて賛同の意思を示した。

「…………で」

一息ついて、イズミが目を瞑ったままリークに尋ねる。

「何か用ですか? リークくん」
「何か用ですか、じゃねーよイズミ! せっかく人が親切心から王子の情報提供してやって無視だなんて酷いじゃないか! オマケにこんな辺鄙な村まで連れてきやがって……」
「リークくんが勝手についてきたんでしょう」
「イズミっ……! 責任取れっ!」

イズミはそう言われて、溜息をついた。
仕方がない、というように頭を振ると、キリを振り返った。

「宿屋ヴィクトに連れていっても、良いですか?」

キリは困ったように言った。

「私は構わないけど……」
「よっしゃああ! 行くぞ、イズミ」

イズミは再度溜息をついた。

「全く……調子が良いんですから……」


Re: 続・ウェルリア王国物語-摩天楼の謎- ( No.105 )
日時: 2015/05/20 12:52
名前: 明鈴 ◆kFPwraB4aw (ID: YxUxicMi)

++++++++++++++

「エマさん、ただいま〜」

宿屋ヴィクトにたどり着いたキリたち一行は、そう言って宿屋内で主人の姿を探した。
食堂を覗くと、エマがテーブルに肘をついて俯いていた。
近くまで行ってキリが声をかけると、エマは疲れた顔を上げて笑顔を作った。

「あら、キリちゃんにイズミ君。お帰りなさい。……と。隣の方は?」
「良くぞ聞いてくれたな! 俺はウェルリア兵のっ……ぐほお」

イズミの素早い手刀が、リークの首筋に直撃する。
リークはよろめいて、その場にうずくまった。
そんなリークを指差して、イズミが言う。

「エマさん。彼は、行方不明事件を一緒に調べてくれることになったリーク君です」

キリが苦笑いを浮かべながら同意する。
「そうなの」と、素直に頷くエマの影で、イズミとリークの言い合いがはじまる。

「何すンだよイズミっ! 痛ぇじゃねえか!」
「誰がおおっぴらに正体明かせと言ったんですか。余計に動き辛くなりますよ。この村、ただでさえウェルリア王国を嫌っているのに」
「き、嫌われてるのか……」
「そうですよ。ウェルリア兵士たる者、周辺地域のことを知らないでどうするんです」
「うるっせえ! ガリ勉イズミなんかと一緒にするなっ!」

そこで、あら?と首を傾げるエマ。

「そういえば、アスカ君は?」
「ああ……途中ではぐれてしまったみたいなんです。エマさん、アスカおう……んんっ、アスカくんは、帰ってきてませんか?」
「帰ってきていないわ」
「じゃあさ、じゃあさ。マルカは?」

打って変わってキリが大きな声で尋ねる。
エマが疲れきった表情に軽い笑みを浮かべた。

「ああ、マルカならさっき帰ってきたわよ」
「ホント?! それならマルカに聞きたいことがーー!」
「ああ……そうなんだけどね、マルカ、なんだか疲れてるみたいなの。もう寝室で横になってるわ。もう今日はそっとしておいてあげて」
「マルカちゃんは、何処に行っていたんです?」

イズミの質問に、苦笑するエマ。

「あの子、私には何もしゃべってくれないから。反抗期って奴かしら。……でも母親として、あの子のこと、信じてあげないとね」

ほのかに香るゼラニウムの花。

「私も……それに、勿論もちろん主人も同じ考えよ」

そう言ってエマは微笑みを浮かべながらキッチンに引っ込んだ。
残されたキリとイズミとリークは顔を見合わせるしか無く、しばし沈黙が3人を包んだ。
窓辺で夕陽色に染まったゼラニウムが哀しげに見つめていた。