複雑・ファジー小説
- Re: 続・ウェルリア王国物語-摩天楼の謎- ( No.123 )
- 日時: 2015/06/15 18:31
- 名前: 明鈴 ◆kFPwraB4aw (ID: sCSrO6lk)
「宿屋のご主人が生きていると思い込んでいたけど、実はそうじゃなかった。宿屋にはマルカとエマさんの2人だけが暮らしていたんだよ」
キリの唇が微かに震えている。
リークはそれに気付きながらも何が出来るでもなく、ひとまず気になったことを口にした。
「でも、なんで店の主人なんかを生きているようにみせかける必要があったんだ?」
「分かんない。だけど、マルカが嘘をついているようにも思えなかった……」
「となると、エマさんがご主人が亡くなったことをひた隠しにしている……ということですか」
「なんでだ?」
さらなるリークの問いに、キリは首を横に振った。
「分かんない……」
「んだよ。分からないことだらけじゃんかよ」
「まあまあ」
イズミが口を挟んだ。
「僕らが知っている範疇でこの問題の解決は難しいんですよ。まだ何かが足りないんです。やはり、実際に摩天楼に行かなくては……」
「取り敢えず、マルカに会おう。無事かどうか、確認したいの」
キリの提案に、珍しく「そうだな」とリークが賛同した。
イズミが大げさに驚いた風にリークを見る。
リークはイズミの反応にムッと眉を顰めた。
口を尖らせて、賛同した旨を述べる。
「マルカって奴は一回神隠しにあってるんだろ? そん時の話を聴いて、手がかりを掴むのもありなんじゃないかーって。ほら、アスカ王子も神隠しにあったっていうんだったらさ」
「そっか……」
つぶやくように、キリは言った。
「アスカの行方も分かってないもんね……多分、摩天楼にいると思うんだけど……。まだ全然……何も分かってないんだもん。イズミさん、私……」
キリは、そこまでいって口ごもった。
今にも泣き出しそうな顔でイズミを一心に見つめている。
腕を組んだまま冷たいコンクリートを睨んでいたイズミは刹那、ふっと表情を崩した。
「考えている暇があったら行動、ですよ。キリさん。行きましょう」
地下へ続く階段を一段降りる。
下から吹き上げる風がキリの軽い前髪をかきあげる。
「そだね。ーー行こう」
暗闇を切り裂くように、キリは大きく靴音を響かせて階段を降りていった。