複雑・ファジー小説
- Re: 【閲覧4000感謝】続・ウェルリア王国物語-摩天楼の謎- ( No.124 )
- 日時: 2015/07/15 18:40
- 名前: 明鈴 ◆kFPwraB4aw (ID: Ib5HX0ru)
【第五章 秘めごと編】
〜〜第二話:神父の過去〜〜
「遅かったね」
暗闇へと延びる階段を降り立つと、その先で神父が待ちかねていた。
神父は仄かに揺らめく蝋燭を燭台に載せ、静かに佇んでいた。
「ご、ごめんなさい……。あれ、エマさんは?」
神父以外に気配を感じられなかったキリは、蝋燭の灯りを頼りに、目を凝らして辺りをよく見回した。
神父が軽く息を吐いて、答える。
「エマさんは先にマルカ君のところに向かっているよ。私たちも早く向かおう」
「向かうって、何処に?」
「マルカ君を匿っている場所に、だよ」
「まだ歩くのか?」
訝しげにリークが尋ねる。
「嫌かい?」
「いっ……別にそう言う意味で聞いたんじゃ無い」
リークの言葉に神父は微笑んだ。
「分かりにくいところに置いておかないと、悪いヤツらに見つかってしまうでしょう」
「それも、そうか」
妙に感心したように頷くリークを柔らかい眼差しで見つめた神父は、しばらくしてから歩き始めた。
キリとリークもそれに従って歩き出そうとして、それから、立ち止まったままその場から動かないでいるイズミに気がついた。
「待ってください」
微動だにしないイズミの唇が、はっきりとそう動いた。
足を止めて、神父がきびすを返す。
「何かな? イズミ君」
「僕は貴方に問いたい」
「何だろう」
「僕は……貴方を信用することは出来ない」
「…………ふうん」
「……反論、しないんですか」
「反論したところで、君は私を疑うのをやめないだろう」
「当たり前です」
いつになく語気を荒げるイズミと、反して至極冷静な神父に挟まれ、キリとリークはただ狼狽えるしかなかった。
2人の顔を交互に見つめ、成り行きに身を任せるしか無い状況下だ。
「貴方は、何者なんです」
「この村で長年神父をしているミナト=クロノだよ」
「ミナト=クロノ……この名前でもっと早くに思い出すべきでした」
イズミが鋭い眼差しで神父を見据える。
「神父さん……いや、ミナト=クロノ。貴方の正体が婦女暴行殺人の被疑者であり、且つ脱獄犯だってことをね」
- Re: 【閲覧4000感謝】続・ウェルリア王国物語-摩天楼の謎- ( No.125 )
- 日時: 2015/07/06 19:21
- 名前: 明鈴 ◆kFPwraB4aw (ID: FBVqmVan)
【※グロ表現注意※】
放たれた言葉は、一瞬にして地下通路を凍りつかせた。
キリはイズミと神父の顔を代わる代わる見つめて、それから、同じように慌てふためいているリークを見つめ、キリは唸った。
今、イズミさんは何て言った……?
神父さんが……ナニ?
フジョ……ボウコウ……?
「あれは私じゃない」
神父は感情を押し殺したような声で小さく反抗した。
「あれは偶然だったんだ」
彼の表情は、まるで能面のようだった。
「私はただ、道端の彼女が哀れだったので埋葬しようとした所を……ウェルリア兵に運悪く見られてしまって……咎められたんだ」
「それはそれとして、です。貴方のその後の行動が問題なんですよ」
「その後の……行動?」
「『脱獄』は、立派な罪です」
被さるようにして放たれたイズミの言葉に、リークが思わず、
「それをお前が言うか」
ぼそりとつぶやいた。
「しかし……あの時脱獄しなければ、私はとうに処刑されていたんだ」
まるで他人事のように神父は当時を回想する。
イズミは唇を噛んで、そうして、フッと息を吐く。
「酷い……事件でしたよね」
キリはびくりと身体を震わせた。
それ程までに、イズミが放った言葉の闇を強く感じ取ったのだ。
「妊婦の腹がぐちゃぐちゃに引き割かれ、中の胎児が連れ去られていた。彼女の子宮の状態からして、もう産まれても良いぐらいに成長していたであろうに……。それとも、妊婦自身が赤ん坊を産むために、何者かに頼んでああなってしまったのか……」
キリの隣でリークが口を押さえて、うぐっと呻いた。きっと、想像してしまったのだろう。
彼はしばらくその場にしゃがみ込んで、両手で胸元のシャツを強く握りしめていた。
キリも、きっと今自分の顔を鏡で覗いたら酷く青ざめているに違い無いと思った。
流石に想像するのは止めた。
言葉の響きだけで、至極気分を害されていた。
人間のやることでは無い、凄惨な事件ーー
その犯人が【この人】だって……?
キリはもう一度振り返って目の前の人物を見つめた。
意識せずとも、顔が強張っているのに気づいた。
キリの視線を受けて、彼は俯いた。
それから、首を振って言った。
「いや、彼女の表情は恐怖で引きつっていた。今でも鮮明に思い出せるよ。あれは……望んでもいないのに奪われた生命だと……」
それは、先ほどのイズミの疑問に対して放たれたものだった。
自分に向けられたものではなかったが、しかしキリはぶるりと肩を震わせた。
冷たい何かが背筋を撫ぜていった。
何故、この人は……
神父を目の前にして、キリは思った。
こんなにも他人事のように、話すのだろう。
自分のことを。