複雑・ファジー小説

Re: 【閲覧4000感謝】続・ウェルリア王国物語-摩天楼の謎- ( No.126 )
日時: 2015/07/07 22:33
名前: 明鈴 ◆kFPwraB4aw (ID: atRzAmQi)

神父と目が合い、キリは思わず視線を逸らそうとしたが、しかしグッと踏みとどまった。
薄く青い視線がキリの視線と絡み合う。
そんな風には見え無い。
むしろ、澄んだようにみえる、この人の目……

「嘘じゃない」

キリの目を見つめたまま、彼は言った。

「信じて欲しい。私はやってない」

信じて良いのだろうか。
しかし……

キリは静かに対峙しているイズミを振り返った。
もし、神父の言うことが本当だとしたら、無実の罪で彼は咎められていることになる。
だとすると、真犯人がいるわけで……

「その、事件って、何年前の話だ、イズミ」

うずくまっていたリークが、むせながら尋ねた。
イズミが目を見開く。
予想もしない質問だったのだろうか。

「あれ、リーク君。知らないんですか?」
「知らねえよ! むしろなんでお前、そんなに詳しいんだよ!」
「ウェルリア王国の凄惨な大事件じゃないですか。先生たちが、あれ程言ってたじゃないですか」
「ああ? 歴史の授業か? んなの知らねーし。寝てたし」
「全くリーク君は……。相変わらずの問題児ですね」
「お前に言われたくねぇよ!」
「あのぉ……」

おずおずとキリが仲裁に入る。

「それで、何年前の事件なの……?」
「10年前だよ」

間髪入れずに神父が答えた。

「10年前……?」

何かが引っかかる【10年前】というワード。
キリが首を傾げるやいなや、突然廊下の奥から空気を切り裂くような叫び声が聞こえてきた。


Re: 【閲覧4000感謝】続・ウェルリア王国物語-摩天楼の謎- ( No.127 )
日時: 2015/07/09 12:46
名前: 明鈴 ◆kFPwraB4aw (ID: iGp9Ir2k)

4人がハッと振り返ると、声のした方からパタパタと足音を立ててとある人物が姿を現した。
小気味良いテンポでやって来たのは、彼らが捜し求めていた人物であった。

「マルカ……!」
「キリーーーっ! 久しぶりだなあ!!」

歓喜の声を上げて両手をわっしわっしと振りながら、駆けてくる。
どうやらエマから一切の話を聞いて飛んできたそうだ。
キリとマルカは耳を突くような歓声を上げてお互いに喜びを分かち合った。
もっとも、残された男3人組は乙女2人の超音波のような会話に、耳を塞ぐなどしてその場を耐え抜くことを余儀なくされたのだが。
そうして、ひとしきり再会を噛み締めたところで、マルカがしっかと神父と向き合って、言った。

「それで、神父さん。ホントに良いんだよね? ここから出て」
「うん」

微笑んでから、神父はイズミをゆっくりと見つめた。

「そこの呪術師さんが、しっかりとマルカ君を守ってくれるよ」

それを聞いて、マルカは驚いて声を上げていた。
声が通路に反響し、リークを筆頭にキリとイズミも思わず耳を塞いでいた。

「そそそそそ……」

震える指先を動かして、恐る恐るイズミの顔に向ける。

「それ、ホントか。イズミって呪術師様だったのか」
「……様……?」
「そうなのか。凄い! イズミ様、よろしく頼んだよ!」
「…………様?」

苦笑いを浮かべ、少々動揺気味のイズミを見て、神父が言った。

「この村では、呪術師は命の恩人だからね。そのような方をぞんざいに扱うことは、神に背くに等しいよ」
「そんなになのか……」

ボソリとつぶやいたリークを見据えて神父は頷いた。

「うん。だからこそ、私は君たちに頼みたいんだ。マルカ君のことを。勝手なお願いだけれど」
「……ああ、本当に勝手だよな」
「ちょっと、トゲトゲ君っ!」
ってぇ!」

リークが飛び上がって叫ぶ。

「ダメだよ、そんな風に言っちゃあ」
「俺は素直なんだよ! ……っ、何も叩かなくても良いじゃねーかよ。暴力姫様だなあ」
「なにようっ」
「リーク君。少し大人しくしましょうか」
「痛っててて、イズミっ……お前まで俺をそーやって扱うっ……」
「じゃあどうやって扱えば良いんですか。可愛いらしいですね〜〜素敵です、リーク様〜〜。……これで満足ですか」
「首根っこ引っ掴みながら言う台詞じゃねえよ、ソレ。猫をあやしてるんじゃねえんだから!」
「突っ込むところ、そこかよ……」

マルカが思わずぼやき、キリが笑う。
リークは不機嫌そうにその後は腕を組んでイズミを睨みつけていたが、本気で怒ってはいないようだ。
それじゃあ、と言ってイズミが神父に向き合う。

「彼女のことは、僕たちにお任せください」
「え……?」

びっくりしたように神父が目を見開き、それから少し間をおいて、「ああ」と頷いた。

「よろしく頼んだよ」
「あ、貴方に最後に言っておきたいことがあるんですけど」
「なにかな?」

瞬間、空気がピン……と張り詰めた。
キリたちは思わず息を飲んで、イズミと神父を見つめた。

Re: 【新章突入!】続・ウェルリア王国物語-摩天楼の謎- ( No.128 )
日時: 2015/07/11 11:05
名前: 明鈴 ◆kFPwraB4aw (ID: MXjP8emX)


「貴方の過去の真偽は、僕には分かりません。半分信じていますし、まだ信じられない部分もあります」
「……」
「でも僕は、貴方の疑惑も解きたいと思っています。先生が……言っていたから」
「先生?」

うつむきがちな顔をハッと上げて、イズミは恥ずかしそうに頭をかいた。

「ああ……スミマセン。僕の学校の先生です。彼も当時、事件に関して懐疑心を抱いていた……そのことを、思い出したんです。だから、僕も貴方を信じる。もう10年も前の出来事なので、証拠も何も残っていない可能性はありますが……」

神父はしばらく黙ってイズミの言葉を聞き、そらから静かに言った。

「ありがとう。その気持ちだけで嬉しいよ」
「……必ず」

イズミと神父は、固い握手を交わした。
そうしてから、イズミは振り返ってキリたちに微笑んだ。

「では、宿屋に戻りましょうか」

そう言った時だった。

「ダメよっ!」

闇をつんざくような悲痛な声が響き渡り、一同は思わず身をすぼめていた。
神父が暗闇の先に蝋燭をかざすと、顔面蒼白で佇んでいる女性の姿が浮かび上がった。

「やっぱり……連れて行かせられないわ……」
「エマさん?!」
「政府の輩と一緒にいる呪術師様に、うちの子は任せられないわ」
「そうかもしれないけど……」
「だから……連れて行かせはしないわ。マルカ! こっちにおいで」
「お母……さん」
「さあ、いい子だから」
「…………」
「マ、マルカ……?」

キリが不安そうに隣りのマルカを見つめる。
マルカは唇を噛み締めていたが、くっと前方を強く見据えた。

「エマさん。あたしは行くよ」

エマの表情が瞬間、絶望一色に染まった。

「マルカ。貴方、自分が何を言ってるのか分かっているの」
「あたし、もうこんな暗いところに閉じ込められるのはイヤだ」
「それはーーマルカ、貴方の無事のために……」
「あたしは弱くないっ!」

マルカの言葉に、エマが怯んだように後ずさりした。
追い討ちをかけるかのように、マルカは更に言葉を重ねる。

「自分の身は自分で守れる。助けなんかいらない。余計なお世話だ! ……実の母親でも無いくせに」

マルカはそう言うやいなや、キリたちを押しのけて地上へ続く階段を駆け上っていった。

「……エマ、さん」

エマはこの数分間で一気に老け込んだように思えた。
抜け殻になったエマの目はもはや何も見えてはいなかった。
誰も一言も発さないでいる中、神父が動いた。

「……マルカ君を、よろしく頼んだよ」
「…………」

コクリと頷く。
神父は目を伏せると、エマの肩にそっと手をやった。

こうしてキリたちはマルカを追って、教会を後にしたのだった。