複雑・ファジー小説

Re: 続・ウェルリア王国物語-摩天楼の謎- ( No.132 )
日時: 2015/07/20 11:53
名前: 明鈴 ◆kFPwraB4aw (ID: PtmJe7wa)


【第六章 漆黒編】
〜〜第一話:心壊〜〜

「あれ……」

薄暗い空間が果てし無く広がっている。
この空間だけ何者かに切り取られたかのようにゆっくりと時間が流れているように感じる。
見覚えのある風景に、キリは思わず息を漏らして立ち止まった。
どうやら最上階についたらしい。
キリは慌ててリークを振り返った。

「ここ、最上階だよ!」
「着いたってことか……」

がっくりと膝をついて、リークが安堵のため息を漏らす。
しかし、それも一瞬のことであった。

『誰だろう。キミたち、誰なんだロウ』

いやに頭に反響する声であった。
否、頭の中に直接響いている。
そう表現したほうがしっくりくる。
キリとリークは同時にびくりと肩を震わせた。
明かり取りの窓から漏れる月明かりに照らされて、前方に誰かがいた。
漆黒の羽織を纏い、その手は大切そうに水晶玉を抱えている。

「なんだ……?」

キリの隣でリークがぼそりと呟く。
途端に、一気に周囲の空気が重たくなった。

『なんだろう。キミたち、何しに来たんだロウ』

胸が潰されたように苦しい。
呼吸することが辛い。

「わたっ、私たちは……」

キリが慌てて目の前の人物にそう言った。
と、フードの下の唇が歪んだ。

『キリ……リーク……』

名前を呼ばれた2人の顔色が途端に蒼ざめる。

「なんで……名前を知ってんだよ、お前」
『何でも知ってるよ。なんでも。でもキミたちのこと、詳しくは知らない。教えて、教えてよ。教エテ』
「誰が教えるかってんだっ。……おい姫様よお、ヤバいんじゃねえか、俺たち」
「うん……」

キリは目の前の人物をもう一度じっくりと見つめた。
背丈は自分とそんなに変わらない。フードから僅かに見え隠れする表情にはあどけなさが残っている。年齢は不詳だが、そこまで歳をとっているようには見えない。

『キミたちのこと、教えてよ。遊ぼウヨ』

パリンパリンと激しい音を立てて、周囲の窓ガラスが全て弾け飛んだ。
灯っていた蝋燭の炎が、風も無いのにゆらゆら揺らめき始める。
キリとリークは、ますます顔を引きつらせた。

「ヤバイぞコレ。もう、とやかく言ってる場合じゃねえよ。一旦イズミたちの所に帰るぞ」
「帰れたら……良いんだけどね……」

と、突然。2人を激しい眩暈が襲った。
足元がふらつき、それぞれが近くの壁にもたれかかる。慌てて態勢を整えたキリの視線の先にいたのは果たして……


リィであった。