複雑・ファジー小説
- Re: 【新章:漆黒編】続・ウェルリア王国物語-摩天楼の謎- ( No.145 )
- 日時: 2015/09/22 17:29
- 名前: 明鈴 ◆kFPwraB4aw (ID: ERCwuHMr)
【第六章 漆黒編】
〜〜第三話:悪夢〜〜
キリが目を覚ますと、目の前にイズミの寝顔があった。
「……。…………?」
キリはゆっくりと起き上がって辺りを見回して、やっと状況を飲み込んだ。
どうやらキリたちは悪魔ハノイによって塔の一階に投げ出されたらしかった。
すぐそばの扉から眩しい光が差し込んでいた。
キリたちが長いこと気を失っている間に、朝がやってきたらしかった。
「ん……ここは?」
「くっそぉ、頭痛えぞ……。どうしてくれんだイズミぃ」
「なんで僕のせいなんですか」
「なんかムカつくんだよ、お前!」
「……無意味な八つ当たりはやめて下さい」
目を覚ましてすぐにイズミとリークは、相も変わらず会話の殴り合いをしていた。
キリは二人に対して思わずため息をつき、すぐさま声を荒げて言った。
「早くお城へ行かなくちゃ! 国王様が危ないよ!」
早く、早くーー
キリはイズミとリークの言葉を待たずに、塔から飛び出していた。
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今朝方のウェルリア城内では、数日間行方不明だったアスカが帰ってきたという噂がたちまち広まり、城内は一斉に王子を盛大に迎え入れる準備に取り掛かっていた。
ある者はせっせと豪勢な食事を作り、またある者はアスカの部屋を今一度綺麗に掃除し直した。
とにかく城の中は突然の王子の帰宅にてんやわんやであった。
ところで、湖の真ん中に浮かぶように建っているウェルリア城の唯一の通行手段であるが、引き潮と共に現れる白い道を渡るか、渡し船を使う手段の二手であった。
ボロ布を纏ったアスカが城の近くに姿を現したのは、ちょうど引き潮の時刻。
兵士八名が護衛でアスカを取り囲み、一行がゆく道の両側にはずらりとウェルリア兵が剣を構えて王子の帰還を見守っていた。
「よく帰ってきたな、アスカ」
メイド達によってかっちりとした服を着せられ、王子と言われて誰もが頷く見た目に変貌したアスカは、そのまま大臣に連れられて王の間へやって来た。
ウィルア国王はそれだけ言うと、膝をつき、頭を垂れたままのアスカに下がって良いと命じた。
王子は黙ったまま立ち上がると、踵を返し、大臣と共に自室へ帰った。
その時を伺っているのか。
何をするでもなく、アスカは眉を顰めて部屋の一点をじっと見つめていた。
朝の食事を終え、その後一人廊下を歩いていたアスカは、背後に気配を感じて振り返った。
が、そこには誰もいなかった。
ただただ、赤い絨毯が白い壁に沿って延々と伸びているだけだ。
振り返ってしばらく無言で見つめていたアスカは、何か思案するような仕草をしてから、また歩き始めた。
その直後、背後で衣擦れの音が聞こえ、アスカは今度こそ勢いよく振り返った。
そこには誰もいなかったが、アスカは確かに見た。
廊下の角に、何者かが駆け込んだのを。
「……誰だ」
ピリッとした空気が、廊下に張り詰めた。