複雑・ファジー小説

Re: 【新章:漆黒編】続・ウェルリア王国物語-摩天楼の謎- ( No.148 )
日時: 2015/09/23 11:09
名前: 明鈴 ◆kFPwraB4aw (ID: FOn.NxJ9)



しばらくして、曲がり角からそろそろと現れたのは皇女ユメノであった。
顔だけをひょっこり覗かせて、少々戸惑いながら遠巻きにアスカの姿を眺めている。


「……何か、用か」

沈黙を破ったのは、アスカもといハノイであった。
その声は誰が聞いてもアスカ王子そのものであった。
ユメノは声をかけられホッとしたのだろうか、多少控えめながらも「あのな、兄上」と言いながら、アスカに近づいていった。

「あのな。朝食の時から思っていたのだが……兄上は本当に、兄上なのか?」

そう言って、ユメノは大きな瞳でアスカの顔を食い入るように見つめた。
身長差のせいで自然と下から見上げる格好になる。
ぐっと唇を噛み締め質問してくるユメノに対して、アスカはゆっくりしゃがみ込んでユメノに視線を合わせた。

「なんだ? 突然そんなこと聞いて」
「ああ……いや」

アスカからそのような返答がくるとは予想していなかったのだろう。
視線を彷徨わせて、ユメノは戸惑った表情を見せた。
そうして、困ったような笑みを浮かべて、

「いや、少し聞いてみただけなのだ。じゃあな」

そのまま、自室へと戻っていった。
その後ろ姿をアスカはしばらく無言で見つめていた。
その表情は、やけに硬く、冷え切った目をしていた。
と、何を思ったのか彼は突然踵きびすを返し、自身の寝室へ入った。
かと思うとすぐに部屋を飛び出し、廊下を足早に歩き始めた。
その手には、鈍色に光る護身用の剣を一振り握り締めていた。