複雑・ファジー小説
- Re: 続・ウェルリア王国物語-摩天楼の謎- ( No.73 )
- 日時: 2014/11/02 07:33
- 名前: 明鈴 ◆kFPwraB4aw (ID: 96w7BTqj)
【第三章 帰国編】
〜〜第一話:気がかり〜〜
キリたちは宿屋ヴィクトへ着くやいなや、1階奥の食堂に駆け込み、間髪入れずに若女将のエマにマルカのことを尋ねた。
しかし、彼女曰く、マルカはキリと喫茶店に出かけたっきり戻ってきていないという。
「本当に戻って来てないの?」
「ええ……。まあ心配しなくても大丈夫よ。あの子、時々フラッとどこかに1人で出て行って、気づいたら帰って来てるんだから」
エマはそう言って声を立てて笑った。
しかしキリは、自分の心臓が何者かに握り潰されるような嫌な感覚を覚えるのだった。
マルカーー
一体、何処に行ってしまったのーー?
まるで、何年も前から友達だったみたいに何でも相談にのってくれたマルカ。
ねえマルカ、どこにいるの……?
「もうこれ以上、誰も、何処にもいかないでよ……」
キリの脳裏を、ラプール島の小高い丘に立つ小さな墓と顔も知らぬ両親への想いがよぎる。
……いなくなってしまった。
また、私の前から、大切な人が居なくなってしまった。
リィさん……。パパ、ママ……。
私、どうしたら良い……?
「キリさん」
ハッと顔を上げると、イズミが心配そうに眉根を寄せてキリの顔を覗き込んでいた。
いつの間にか、1人で考え込んでいたらしい。
「キリさん、僕がわかりますか?」
よほどキリに対して違和感を感じたのだろう。
イズミはキリの肩を揺さぶって同じ言葉を繰り返していた。
慌てて頭を振って周囲を見渡すと、エマが心配そうにキリを見つめていた。
キリは苦笑いを浮かべて、大丈夫だ、と頷く。
アスカは腕を組んで壁にもたれかかり、長い睫毛を伏せていた。
「……エマさん。私、やっぱりマルカが心配……です」
唐突に、つぶやく。
「え……?」
「ええ、キリさんの言うとおりです。僕も彼女のことが心配です。神隠し騒動が起きている最中に1人で……しかも我々の前から姿を消すなんて。何かあったに違いありません。早くマルカさんを捜しに行きましょう」
「そうだよ。イズミさんの言うとおりだよ。ねえ、エマさん!」
「でも、ねぇ……」
キリとイズミに畳み掛けられ、しかしエマは何故か渋った様子だ。
「オレたちに捜しに行かれて、何か困ることでもあるのかよ」
ざっくと空気を切り裂いて単刀直入に尋ねたのは、アスカであった。
キリたちが振り返ると、彼は腕を組んだまま、相変わらず不機嫌そうな顔をしていた。
「オレたちに動き回られると、厄介なことでもあるのか?」
- Re: 続・ウェルリア王国物語-摩天楼の謎- ( No.74 )
- 日時: 2014/11/03 11:14
- 名前: 明鈴 ◆kFPwraB4aw (ID: ktd2gwmh)
「ちょっと、アスカ……」
「…………」
「エマさん……何かあるんですか?」
「……あんまり事を荒立てたくない、と言ったら、あなた達は怒る?」
そう言うエマの顔は、酷くやつれているように見えた。
「もし行方不明だと騒ぎたてたら、村の人総出でマルカを捜すことになるでしょう? 私、もうこれ以上、周囲の人たちに心配事をふっかけるような真似はしたくないんです……」
「でも、今現在、仮にも自分の娘さんが行方不明になってるかもしれないんですよ? なのに貴方は、捜しに行かないって言うんですか?」
「そんなの、マルカが可哀想だよ!!」
「どうなんだよ。エマさん」
イズミとキリとアスカに立て続けに責められ、エマは唇を噛み締めていた。
少しして、その唇から言葉が漏れる。
「……違うのよ」
「え?」
「……娘じゃ、ないのよ」
「エマさんの娘じゃ、無いって……?」
「……ああ、もう。私は母親失格なの。……」
つぶやくように言って、エマは唐突にパンッとエプロンの裾を払った。
半ば開き直ったように、顔に笑みを張り付けて。
「……あなた達の好きにしてくれて良いわよ。ただし、村の人を巻き込まないで頂戴ね」
そう答えたエマの表情は、曇っていた。
+++++++++++++
「居た? イズミさん」
「いえ。こちらは特に手がかり無しです……アスカ王子は?」
「こっちもだ。マルカの姿を見た村人は誰ひとりとしていなかった」
マルカを捜すためにキリとイズミとアスカは手分けをして村中探し回ったのだが、マルカの姿はおろか、手掛かり1つ掴めずにいた。
そうして居るうちに日は暮れて、3人は変わらず宿屋ヴィクトに身を寄せるのであった。
その夜。イズミの部屋にノック音が木霊した。
- Re: 続・ウェルリア王国物語-摩天楼の謎- ( No.75 )
- 日時: 2014/11/08 03:15
- 名前: 明鈴 ◆kFPwraB4aw (ID: oq0pGGOm)
「はい……?」
「イズミ、入るぞ」
アスカであった。
不安そうな表情を浮かべ、彼は沈黙を守ったまま、木製のベッドの端に腰掛ける。
そうして、微動だにしなかった。
「……どうされました、王子」
つとイズミに声をかけられ、ようやく顔を上げる。
曇った表情のアスカの口から漏れ出たのは、己の中で渦巻く"不安"であった。
「オレに、"何か"あったのか」
「…………。何故、そのようなことを」
「今日1日、オレとイズミとあいつでマルカのことを聞き回っていただろ」
「そうですね」
「あいつ……アイツは、一体なんなんだ」
「キリさんのことですか?」
「キリ……。そうだ。オレは、なんでアイツと一緒に行動してるんだ?」
「仲間だから、ですよ」
「仲間?」
「それじゃ、ダメですか?」
「いや……」
「聞きたいことはそれだけですか?」
「……ん」
黙り込む。それから、
「…………アイツとは初対面のはずなのに、そんな気がしないんだよ……」
眉を顰めたまま、ポツリとつぶやいた。
「ほお」
「何故か気になるんだ……ヘンだろ」
「…………いえ」
イズミは隣に腰掛けて、にこりと笑みを浮かべた。
「出会ってるんじゃないですか? ここで出会う前に、一度」
「フンッ……それは、世間で言う"前世"でってわけか?」
アスカが皮肉を込めて言い放つ。
イズミは、ふっ、と息を吐くと、それから一呼吸置いて、僅かな呼吸で言葉を紡いだ。
「……王子」
それは、本当に小さい声であったが、隣に腰掛けていたアスカはピクリと反応を示した。
「なんだよ」
アスカの言葉に、微笑むイズミ。
その表情は、何故か訝しげであった。