複雑・ファジー小説
- Re: 続・ウェルリア王国物語-摩天楼の謎- ( No.78 )
- 日時: 2014/11/14 09:56
- 名前: 明鈴 ◆kFPwraB4aw (ID: fl1aqmWD)
「話は、それだけですか?」
「ん……。まあ…………」
それだけだ、と口ごもるアスカの顔は、何か言いたそうだ。
「王子。他のご用件は、なんです?」
イズミが微笑みかける。
アスカは、ぐっ、と息を詰めて、視線を宙に彷徨わせてから、改めて息を吐いた。
「いや……その、気のせいかもしんないんだけどさ」
「どうぞ」
「イズミ、お前…………大丈夫か」
「……はあ」
予想しなかった言葉に、イズミは思わず目を瞬かせる。
「えっと、それはどういう意味でしょう」
「お、お前はいつもわけ分かんない奴だけどさ」
何考えてるのかサッパリだし。アスカはそう言ってから、続ける。
「ここんところ……というか、この村に来てから、なんか変だぞ」
「変……ですか」
「イズミ…………何をそんなに焦ってるんだ?」
図星をつかれ、思わず言葉を飲む。
「なんで…………そんなことを言うんです」
「一緒にいるから、わかるんだよっ!」
ぶっきらぼうに言い放ち、そして、
「…………オレで良ければ、相談のるから……さ」
「はあ」
「それだけだっ! じゃあな、おやすみ」
そう言うやいなや、脱兎のごとくアスカは部屋を後にした。
一気に部屋の熱が冷める。
イズミは思わずふっと笑みを漏らした。
ーー見抜かれていた、か。
イズミの姉が小さい頃から遊び相手をしていた王子・アスカ。
イズミ自身、ウェルリア兵としてウェルリア兵隊に在籍する以前から自身の育て親でありウェルリア兵の総司令官であるヨハン先生に連れられて、幾度か遊び相手になったことがある。
何かと、アスカ王子とは縁があるらしい。
「一緒にいると、分かる、か」
では……今までずっと一緒に旅をしてきたキリさんのことは?
忘れてしまった?
それは……そう、あの摩天楼に巣食う悪魔のせいで。
「…………全く……」
早急に手を打たなければいけないじゃないですか。
アスカ王子の記憶を取り戻すーー
ベッドの上に四肢を投げ出し、天井を見つめる。
キリさんを城に連れて行かないと自分はあの薄暗い牢屋に逆戻りなのに……
「全く、俺もお人好しだなーー」
そのまま幾度か浅い呼吸を繰り返し、イズミはいつの間にか眠りに落ちていた。