複雑・ファジー小説

Re: 続・ウェルリア王国物語-摩天楼の謎- ( No.84 )
日時: 2014/11/28 10:18
名前: 明鈴 ◆kFPwraB4aw (ID: EL31vbVI)

「呪術師ジュリアーティさんに、マルカさんの場所を占ってもらうということですか」
「うん」
「ああ……」

突如とつじょイズミの脳裏に皺くちゃの老婆が現れ、「なんでワシが占わなくちゃいけないんじゃ。お前さんがやれば済む話じゃろ。ツーン」とそっぽを向く。

「そうは言っても、僕はあくまで研究員ですから……」
「ん、何か言った? イズミさん」
「いえ、何も」

笑顔で返したイズミは、それから「ウンウン」と大きく頷いた。

「なるほど、それは良い考えですね」

王子はいかがお考えですか、と振り向いて、イズミはアスカの顔色が青ざめているのを目視した。

「……もう、それしか頼みの綱は無いんだろ」
「じゃ、そゆことで!」

キリが元気よくこぶしを突き上げる。
イズミが大きな拍手をした。

「そうと決まれば、エマさんに帰国するってことを伝えておかなくっちゃね」
「多分今日は一日中ウェルリアで過ごすことになりそうですからね」
「……その肝心要かんじんかなめの人物の姿が見えないんだけどな」
「え、エマさん……?」
「エマさんだよ。朝から姿見てないんだけど。それって、オレだけ?」
「ううん。私も見てない、けど……どこ行っちゃったんだろうね」

何故だか一抹の不安が胸をよぎる。
キリたちは考えあぐねて、エマに書き置きを残してウェルリア国へ向かうという結論に達した。
しかし、ウェルリア王国を目指すということがどれだけの危険を伴うのか。
キリは、次のイズミの言葉に、動揺するしかなかった。

「でも、アスカ王子をウェルリア王国に連れて行くのは危険ですよね」

アスカがウェルリア兵たちに見つかってしまったら最後、国に罰されるのは連れ立っていたキリとイズミである。
いくら弁解しても王子誘拐罪として厳罰に処されるのは目に見えている。

「じゃあアスカは残念だけど……」
「ですね。王子、お留守番よろしくお願い致します」
「なんでだよ!」
「だって、そうでもしないと、もしウェルリア兵に見つかった場合僕たちが罰せられるんですよ。既に『王子がいなくなった』と城内で大騒ぎになっているんですから」
「……なんで城内のことをイズミが知ってんだよ」
「勘です」
「笑顔で言われても誤魔化されねえぞ」
「とっても残念ですが……ね。王子。それでは、そういうことで」
「って、勝手に話を進めるなっ!」

お前もなんか言ってやってくれよ、と眉根を寄せてキリを見る。
しかしキリの口から飛び出た言葉は、アスカの意表を突いたものだった。


「いいこと思いついた!」

キラキラと目を輝かせるキリの姿が何故かお世話係のウィンクと重なって見えて、アスカは思わず目をこすったのだった。



Re: 続・ウェルリア王国物語-摩天楼の謎-【11/28加筆修正】 ( No.85 )
日時: 2015/03/07 17:03
名前: 明鈴 ◆kFPwraB4aw (ID: c9BCqrK0)

「なにがキュートで華麗な作戦だ……」

思わず身震いしてしまう。
宿屋を出る前に鏡に向かってぎこちない笑みを浮かべていた己の姿は、よもや何とも言い難いものであった。

(なんていうか、色んなものを失った気がする……)

「アースーカー! 早く〜〜〜」

アスカをこのような心情に追い込んだ当人は、ここより少し先の道で、笑顔でわっしわっしと両手を振っている。
その隣で、イズミはにんまりとした表情を浮かべてアスカを一瞥いちべつした。

(アイツっ……他人事だと思いやがって……)

アスカは地面に引きっていたスカートの裾を両手で持ち上げると、ドカドカと足音を立ててキリ達の元へ向かった。
2人の元につくやいなや、キリが大きな目を更に見開いて、アスカを上から下までじっくり見回した。
心なしか、瞳がキラキラと輝いている。

「うん、やっぱり似合ってる似合ってる。勝手にマルカのタンスから引っ張り出してきたけど、サイズもピッタリだね!」
「ええ。似合ってますよ、アスカ王子」
「……イズミ、お前はバカにしてるだろ」
「いいえー、そんなことはありませんよ?」
「くっ……」

唇を噛み締めながら、何故かこのような出来事が前にもあったように錯覚する。
御付きのメイドの口車に乗せられて、メイド服を着せられたような……

「って、またかよ! またこうなるのかよっ! ……? またって……?」

微かな記憶。
それは、決して遠い過去の思い出では無い。
いつだったっけ……

ずきり、と頭の奥が痛む。

覚えてなどいない。
けれど、なんで既視感を感じるんだ……

「何してるんですか王子。早くジュリアーティさんの所へ向かいますよ」

分かったと発した言葉に、僅かにため息が混じった。