複雑・ファジー小説

Re: 続・ウェルリア王国物語-摩天楼の謎-【3/7更新再開】 ( No.88 )
日時: 2015/03/16 02:55
名前: 明鈴 ◆kFPwraB4aw (ID: OhjxYZN.)

++++++++++

延々と続く石畳の道を縫うように、ただひたすら歩いて行く。
その傍らには漆喰で塗り固められた塀が何処までも続いており、そこに夕陽に照らされて3つの影がぼんやりと伸びていた。
白い壁に埋め込まれた木の扉が等間隔に並んでいる。

「変わらないなあ……」

たった半年、されど半年。
キリは半年ぶりの訪問に、思わず溜め込んでいた息を静かに吐き出すのであった。

ウェルリア王国の南部に位置するこの町はその昔、呪術師が多く暮らす地であった。
しかし今から12年前に起こった呪術師暗殺事件以降、国が全土の呪術師に活動禁止令を発布したため、呪術師たちは自分たちの役割を改めざるを得なかった。
そのような経緯いきさつがあり、呪術師たちは現在、呪術を封じて自営業を営んでいるのだが、中には、裏でひっそりと呪術師としての活動を行っている者もいた。
老女ジュリアーティもそのうちの1人で、表向きは喫茶店を切り盛りしているが、実はその筋では有名な呪術師として隠密に活動しているのだった。

「あのレンガの建物ですよね」

イズミが疲れ切った様子でキリとアスカに声をかける。
前方に古風なレンガ造りの建物が見えた。
表玄関にある看板には、筆記体で《喫茶店ジュリアーティ》と記してある。

「入りましょう」

キリが頷く。
その表情は陰っていたが、誰一人として気づく者はいなかった。
キリのすぐ後ろを歩いていたアスカが、玄関前で、つと足を止めた。
イズミが訝しげにアスカを見る。

「どうされました? アスカ王子」
「あ…………」

刹那、アスカの頭に鋭い痛みが走る。
まぶたの裏側でチカチカと何かが点滅する。
脳裏に浮かぶのは、懐かしい思い出。
喫茶店の路地裏を走る自分。その肩には白フクロウを連れている。

(いつの記憶だろう……)

断片的に記憶が蘇る。
脳裏に浮かぶのは、必死で走る自分の姿。
何かくような感情が、自分の背中を押している。

ーー早く、早く逃げなければ。

路地裏を出たところで、勢いよく少女とぶつかった。少女が何か叫ぶ。
しかし、回想に出てきた少女の顔は真っ黒く塗り潰されている。

オレのせいじゃない。
オレのせいじゃ……無いんだけれど……。

「ごめん……なさい」

恐怖……痛み……焦燥感。
何故か謝罪の言葉が口から漏れ出る。

この少女は誰なんだろう。
謝らなければならないことをしてしまったんだろうか。
だとしたら、この顔も分からない少女はオレを許してくれたのだろうか。
だとしたらオレは…………

「王子」

ハッーーと息を吐き出した。
気がつけば、長い間玄関の前に立ち尽くしていた。
いつのものか分からない記憶を脳内で回想していたらしい。
アスカのすぐ隣にかがみこんで、イズミが怪訝そうな表情を浮かべてアスカの顔を覗き込んでいた。

「大丈夫ですか?」
「…………お前には関係無い」

イズミが差し伸べた手を振り払って、アスカは喫茶店に足を踏み入れた。
金属製の取っ手が触れた指先に僅かに静電気が走り、アスカは顔をしかめた。

「【呪い】か」

唐突に、しわがれた声でそう呟く人物がいた。
店内の右脇にあるカウンターから、その声は聞こえた。
後からやってきたキリとイズミを含めた3人が一斉に声のした方を振り向くと、奥から老婆がゆっくりと姿を現した。
黒のストールを羽織り、そこから覗く腕は枯れ木のようにしなびれていた。

「お前さん、呪われているね」

老婆は確かにそう言ってのけたのだ。