複雑・ファジー小説
- Re: 続・ウェルリア王国物語-摩天楼の謎- ( No.97 )
- 日時: 2015/05/11 20:19
- 名前: 明鈴 ◆kFPwraB4aw (ID: cvsyGb8i)
【第四章 真実への序章編】
〜〜第一話:推測〜〜
「イズミさんっ……!」
「キリさん……?」
「どうかしたんか、小娘」
「あ……アスカが……」
とにかく無我夢中で走って来たので、息苦しい。
キリは左胸を押さえて自身の荒い呼吸を鎮めた。
それから驚いた様子のイズミと老婆を見据えて、必死に言葉を紡いだ。
「アスカが……消えちゃったの……」
「なんですって?」
「ねえ、どうしよう。イズミさん」
キリは震える唇をぐっとかみしめた。
青ざめた顔で、占いの間と喫茶店を繋ぐ扉の前に立ち尽くす。
イズミはしばらくキリを見つめていたが、ふうと息を吐いて、柔和な表情を浮かべた。
「ね、ひとまず落ち着きましょう。キリさん」
「ダメだよ、早くアスカを助けに行かなくちゃ……!」
「落ち着いてくださいキリさん。そのアスカ王子のことで、幾つか分かったことがあるんですよ」
「……え?」
「キリさんにも聞いていただきたくて。ひとまず座ってください」
話が長くなりそうですからね、と言いながら、イズミは自身の隣の椅子を引いてキリを座らせた。
言われるがままに椅子に腰かけたキリは、机を挟んで対面したジュリアーティを前に、思わず苦笑いした。
ジュリアーティの落ち窪んだ目がキリをてっぺんから爪先まで舐めるように見つめている。
居心地が悪く、キリは、もぞりと身を揺すった。
「では、僕たちの見解を述べます」
キリの横に同じく腰掛けたイズミはそう言って、ぴっと右手の人差し指を立てた。
「結論から言うと、アスカ王子はアスカ王子だから狙われたんです」
「?」
当然のように、キリの頭上には疑問符が飛び回っていた。
「順を追って説明します。今回の鍵となるのは、ルルーヴ村の神隠し事件です」
「村の人たちが行方不明になっちゃってる、私たちが追ってる事件のことだよね」
「そうです」
「その事件について、関連性が見えたんじゃな」
「神隠しになった村人は、皆ルルーヴ村出身の子どもだということです」
一呼吸置いて、キリがゆっくりと頷く。
「私たちが聞き込み調査の時に話を聴いたお爺ちゃんが言ってたね。神隠しにあった人は未成年が多いって」
「……ああ、相変わらず記憶力が良いことで……」
イズミがぼそりと呟いて、続いてその言葉をかき消すかのように大きく両の手を打ち鳴らした。
「そうなんです、キリさん! つまり、ルルーヴ村の子どもたちが狙われているんですよ」
「大人でなく子どもが狙われとったのは、子どもの持つエネルギーがより強大だからじゃな」
示し合わせたかのように、ジュリアーティが補足を挟む。
キリはしばらく唸って、何か考え事をしているようだった。
イズミが続きを話そうと口を開いた瞬間、キリが食い気味に声を上げた。
「でもさあ、イズミさん」
「……なんですか? キリさん」
「アスカは子どもだけど、ルルーヴ村出身じゃないよ」
「そこなんです」
「…………?」
「この村が昔、生贄を奉って豊作の儀を行っていたのは知っていますよね」
「うん。今はもうやってないけど、って」
「儀式が無くなってしまったのは、何故ですか?」
「なぜ、って、それは、アスカのお父さんが禁止令を出したからで……ん?」
「そう……呪術師禁止令を発布され、公的に生贄を求められなくなった。それがどうしても許せなくて、元凶となったウィルア国王を憎んでいる人がいるとしたら? そしてその憎しみが、国王の子どもであるアスカ王子に向けられたのだとしたら?」
「……なんで、そんな……」
言われてみれば、分かりきったことである。
アスカも何度も自分でそう言っていたでは無いか。
けれど……
「けど、アスカが【王子様】だってこと、村の人は知らなかったよ。知ってたら、まず私たち、村から追い出されてたと思うし」
「何故、其奴がアスカ様を王子であると知っていたのかは、僕にも分からないのですが……」
頭を掻きながら苦笑し、
「まあ、誰かが告げ口したという可能性も考えられますよね」
そう言ってジュリアーティに同意を求めた。
ジュリアーティは素知らぬ顔で腕を組み直した。
「誰が誰に告げ口したの? 誰がアスカを狙ってるの?」
「そうですね」
勿体ぶった口調で、イズミがキリに問いかける。
「キリさんは、誰のせいだと思いますか?」
「…………」
「生贄の儀が禁止されて、そのことで一番の痛手を負った人物……」
気がつくと、キリは、ぐっと自身の口を一文字に結んでいた。
今までのイズミの話をなんとか頭の中で整理し、キリは蒼ざめた顔で正面のジュリアーティに目線を向けた。
ジュリアーティの顔に深く刻まれた皺が、蝋燭の灯によって、よりその陰影を濃く浮き彫りにしていた。
「悪魔……」
イズミがぽつりと呟いた。