複雑・ファジー小説
- Re: 流浪のガンナー【代筆、建て直し】 ( No.1 )
- 日時: 2014/07/19 17:45
- 名前: ミュウ (ID: gOBbXtG8)
ここは砂漠と荒野の国"クライン"
そしてクラインの南の国境にほど近い町"デザート"
風来草が転がっている中、この町の入り口でちょっとした騒ぎが起きていた。
少し太った貴族風の男と、若手のガンナーがもめているのである。
「何故わしを入れてくれぬのじゃ!?」
「あのなぁ、何度も言うけどよ? お前はこのクライン国のあちこちで悪行の限りを尽くしてきた男だろ? そんな大罪人を、のうのうとこの町に入れて只で済むはずがない。この町にとってもお前にとってもな」
その男はどうやら、門番らしきガンナーが町に入れてくれないことに怒っているらしい。
ただでさえ暑い砂漠だというのに、よりにもよってその男は、禿げかけた頭と顔を真っ赤にして怒っている。
一方で青年も、えらい剣幕で捲くし立てている男に腰が引けているわけでもないようだ。
お互いに、一歩も退く気配が無い状況である。
「悪行だと? このワシがかぁ?」
「あぁ」
「ふん! そこまで言うのなら、証拠くらいあるのだろうな?」
「あぁ、当然さ。お前の悪事は、このデザート街でも有名なんだぜ?」
青年は、ここから遥か西にある関所"第一ジャンク"で映された写真が載っている新聞を見せた。
その写真には、今彼の目の前で堪忍袋の緒を切らせている男が、幼い少女に銃口を向けている光景が映っていた。
それを見せられた男。声にならない声を上げて退き始める。
「確かこの写真の子、人質だったらしいな?」
青年は溜息をつく。
その様子を見た男は、この場を乗り切る手段を失って怒り狂い、慣れない手つきでに銃を向けた。
脅し程度にセーフティをはずしたが、これはガンナーの間では攻撃の合図とされている。
青年は目つきを変えた。
「き、貴様……名を名乗れぇい! 今すぐその名を貴様の墓石に刻んでやろう!」
まだドライアドの銃口が震えているときである。
青年は素早く銃を取り出し、それを見て男があたふたしている間に、彼は男の拳銃を撃ち落した。
時間にして、瞬き一回程度。素人が対応できるはずがない。
撃ち落された男の銃は地面に落ち、銃身が大きく歪んで機能を失った。
「俺の名はニック・シャドウ。ま、俺が死んだらその時はその時だが……お前はどうなんだ? お前が死んだら、誰がお前の名を墓石に刻むんだよ? ぼっちのお前のために、俺が刻んでやろうか? えぇ?」
余裕綽々、といった風の青年"ニック・シャドウ"を見て、その男はどこかへと逃げ出した。
「お、お、覚えてろよ貴様ぁ!」
そんな捨て台詞だけを言い残して。
一段落したニックは溜息をついて、銃にセーフティをかけてホルダーにしまった。
門番の仕事も楽じゃない。彼はつくづく、門番の大変さを思い知るのであった。
『全く、いちいち覚えてろって言われても覚えてらんねぇっての』
ニックは手袋をつけ、落ちている件の男の銃を拾う。
色々な角度から眺め、銃の性能や価値を鑑定しているのだ。
『なるほど、性能だけはいいらしいな』
その銃は特注品なのか、ニックが見たこと無い形をしていた。
銃身はやたらと長く、拳銃の癖してセミオート式の機構をしている。
それに、装飾もかなり派手だ。よく見ると、小さな宝石が鏤められている。
一般的に貴族が使用する銃は高性能のものが多いが、それ故に大半は市販されていない特注の銃が多い。
金の力は侮れない。金は天下の回り物、とは、よく言ったものだ。
結果、この銃は性能はよくても、価値は皆無と言って良い結果にたどり着いた。
鏤められた宝石だけなら売り値はあるだろうが、仮に壊れていなかったとしても、この銃そのものに売り値はないだろう。
ニックはその銃を興味本位で鞄にしまい、仕事に復帰することにした。
途端、砂嵐で見え難い状況だが、彼は遥か先から少年が歩いてくるのを目撃した。