複雑・ファジー小説

Re: 三千世界の軌跡-Hope of glow-キャラ募集 ( No.15 )
日時: 2014/07/24 14:34
名前: キコリ ◆yy6Pd8RHXs (ID: gOBbXtG8)

 ビルの屋上まで駆け足で登った雄介。
 20階建ての高層ビルなだけあり、流石に息が切れていた。しかし、休憩している余裕はない。
 何故か前回の因果よりも遥かに敵が多かったため、あったはずの余裕がなくなってしまったのだ。

 雄介は屋上への金属扉を蹴破り、急いで周囲を見渡した。
 既に屋上には1人の少女がいた。少女は驚いた様子で、突然やってきた雄介を振り返る。
 一方で雄介は、そんな少女の反応を期している暇がなかった。
 何故なら少女の近くには、頭1つ分ほどの大きさがある水晶玉が浮かんでいたのだから。
 それを見るや否や、雄介は血相を変えて叫ぶ。

「だ、誰!?」
「朱音! そいつに触るな!」
「へ? は、はい!」

 朱音と呼ばれた少女は、訳が分からない、といった表情を浮かべたが、とりあえず雄介に言われたとおり、彼女は反射的に右手を素早く引っ込めた。

「——ふぅ」

 彼女の手はどうやら触れていなかったらしく、水晶玉は特に動きを見せない。それを確認して安堵した雄介は溜息をつき、朱音の元へ歩み寄り始める。

「——で、貴方は誰? あ、私は榊原朱音ね。何か私の名前知ってたみたいだけど……」

 落ち着きを取り戻したのか、朱音は自分の名を知っている知らない青年——もとい、雄介の正体を尋ね始めた。

「俺は上条雄介。……お前がこの裏世界に取り込まれたと聞いて助けに来た」
「あ、そうなんだ。ありがとう!」
「別にいい」

 半分嘘が混じっていたが、朱音は何も疑うことなく、雄介の言うことを信じたようだ。
 つくづくお人好しだな。雄介はそう思いながら呆れ半分に苦笑し、また溜息をつくのだった。

『"あいつ"に騙される前のこいつを助けてくれ、だったか? 全く無茶を言う……』

 雄介は古い記憶を思い出した。
 彼の脳裏に残っている、この因果へやってくる前の少女の言葉が再生される。

『過去に戻ってさ、あいつに騙された馬鹿な私を、助けてくれないかな……』

 白く何もない空間で、彼が少女と交わした約束の言葉。
 それはつまり、過去に戻って、近い未来に誰かに騙されるとある少女を助ける、という意味となる。
 その約束を交わした相手なのだが、正体はたった今、彼の目の前で笑っている少女——朱音なのだ。
 いつか過ごした因果で傷だらけになった朱音と、健全な状態で目の前にいる朱音の姿が重なる。

「どしたの?」

 くすんだ深い緑の短髪を風に靡かせながら、朱音は橙混じりの赤い瞳で雄介の黒い瞳を覗き込む。
 雄介は不意に視線を逸らした。

「いや、何でもネェ」
「じゃあ行こうよ。雄介君だっけ? 一緒にここのヌシ、倒しちゃおう?」
「そうだな」

 2人はすっかり和み、ここの裏世界から脱出することに専念した。