複雑・ファジー小説

Re: 三千世界の軌跡-Hope of glow-キャラ募集 ( No.20 )
日時: 2014/07/26 22:24
名前: キコリ ◆yy6Pd8RHXs (ID: gOBbXtG8)

 やがて2人はボスと相対した。
 したのだが、そのボスは瞬く間に力尽きてしまって少し拍子抜けだった。
 いくら雄介が使ったドローアンドコールで、たまたま"生命封印の呪詛"が出たからとはいえ。

「凄いね、雄介君。こんなおっきなボス、一撃で倒しちゃうなんて」
「い、いや……たまたまだ」

 朱音は唖然としながら、一切の外傷がないボスを眺めている。
 因みにそのボスなのだが、正体は今まで出てきたゾンビの巨大バージョン。
 ただ攻撃範囲が広くなっただけで、行動の仕方は一切変わっていなかった。
 ここもまた、拍子抜けの要素のひとつであるといえよう。

「おいおい、油断してんじゃねぇ」
「?」

 朱音は気を引き締める。
 だが、その言葉を放ったのは雄介ではなかった。

「!?」

 何か危険を察知した雄介。
 素早くカードをドローし、巨大化させて強化硝子の盾を展開。

 刹那、半透明状の刃が無数に盾に向かって降り注いだ。
 果たして受けきれるだろうか。心配になった雄介だが、杞憂だったらしい。全て防げた。
 ただ、刃が降り注ぎ終わるのと同時に、それら全てを防いでいた盾はあっという間に壊れた。
 雄介は震える朱音を背後に控え、刃が飛んできた場所がどこか、目を凝らし始める。
 数多の刃の雨。あんなものが当たったらひとたまりもない。
 その前に仕留めようと決めたのだ。

「誰だ!」

 雄介が吼える。
 すると突如、ストっという小気味良い音と共に、上空から1人の青年が降りてきた。
 オッドアイに逆巻く赤髪が、雄介の脳裏に強烈な印象を焼き付ける。

「さーて、ショータイムの始まりだァ!」
「なんだコイツっ!?」

 今度は不意打ちよろしく、降りてきた青年の周囲に、何処からともなく現れた無数の細かい刃が集まりだす。
 刃はやがて、大きな1つの巨大な刃となった。
 それは人間どころか、下手すればある程度のボスなら一刀両断できるほどの大きさがある。
 それほどの刃を前に、雄介は冷や汗をかいた。それでも彼は平静を装う。
 しかし、前にいた因果までこの青年の姿はなかったはずである。強烈な疑問が胸に渦巻く。

「いきなり何だ、この殺人鬼が」

 雄介は再びカードをドローし、その刃に対抗できるだけの大きさを持つ盾を展開。
 しかし、青年は躊躇わない。まるで人殺しを楽しんでいるかのような目つきで、刃を飛ばした。
 刹那、大きく嫌な音を立てて刃は盾にぶつかった。飛ぶスピードがかなり速かったらしい。

「ぎゃははははは! 死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ねえええぇぇぇ!」

 青年の声に呼応したのか、刃の切削力が大きく上がった。バキッと音がして、盾に亀裂が入る。

「っ!」

 雄介は攻撃を仕掛けようとして、既に行動を開始していた。
 もう防御は間に合わない。

『仕方ねぇ……』

 雄介は仕方なく、時の腕輪に手を掛けた。
 ここで自分が死んでは、身も蓋もない。今までやってきたことが、すべて無駄になるのだから。
 しかし、時の腕輪を発動させる必要はなかったらしい。
 青年がいきなり怯えだし、巨大な刃を象っていた細かな刃がボロボロと崩れ、消え始めたのだから。

 攻撃対象から攻撃意思が消え、雄介と朱音は大きく溜息をつく。

「全く、死ぬかと思ったぜ」
「た、助かったぁ……」

 朱音は目に涙を浮かべて安堵している。
 一方で雄介は警戒を解かず、青年に歩み寄った。

「テメェ、人様にいきなり攻撃しかけてきた罪がどれだけ重いか、分かってんだろうなぁ?」
「く、来るなぁ!」
「?」

 ここで雄介は、妙な疑問を抱いた。青年の様子が、明らかにおかしいのだ。
 先ほどまで邪悪な笑みさえ湛えて自分たちを殺しにかかっていたのに、今やその面影は微塵もない。
 怯え方が異常なのだ。まるで対人恐怖症のような。その変わり方も、まるで多重人格者のようである。

『ん? 多重人格者? あぁ、そうだ。その答えがあったか』

 雄介は納得がいった。
 多重人格ならば、このような人格の変動があってもおかしくない。

「全く、おかしな奴だな。朱音、行くぞ」
「う、うん。でもこの人、置いて行っちゃっていいのかな……」
「一度俺達を殺しにかかったんだ。助ける義理なんぞ欠片もねぇ」
「そ、そりゃそうだけど……」

 朱音はどうやら、その青年を置いていくことに納得がいかないらしい。
 それでも雄介は先へと進み、現実世界へと出れるワープ装置に向かった。
 仕方なく朱音も、それに引っ張られるようにしてついていった。


   ◇ ◇ ◇


「……私はまた、やってしまったのか」

 その後、残された青年は独り言を呟いて、どこかへと姿を消した。
 "赤沼優斗へ"と書かれた手紙の存在を忘れて。