複雑・ファジー小説

Re: 三千世界の軌跡-Hope of glow-キャラ募集 ( No.28 )
日時: 2014/07/29 20:01
名前: キコリ ◆yy6Pd8RHXs (ID: gOBbXtG8)

「————何故分かった?」
「その腕輪。私、それが何か分かるもん。時の腕輪でしょ? 過去に戻れるっていう」
「————何故それを知っている」
「うーん、勘?」

 雄介は驚きのあまり、硬直したまま動けずにいた。
 それを横目に朱音は少し笑うと、彼に背中を向けて夕日を眺め始めた。
 丁度日の入り一歩手前のこの時間帯。空気が清浄なこの地域ではより一層綺麗に見える。

「それを持ってるって事は、一回は未来から来たんでしょ?」
「一度ならず、気が遠くなるほどにな」
「えへへ、そっか。じゃあさ、何で未来から来たか、教えてもらってもいい?」
「————それは、答えられない」

 寧ろ、答えてはならない。
 いくら未来が分かっているからとはいえ、雄介という不確定因子がいる限り、この因果の未来は安定しない。
 不用意にペラペラと要らぬことを喋ろうものなら、この因果の未来は最悪の結果に陥る可能性もある。

「何で?」

 そんな事とは露知らず、朱音は雄介に向き直って首を傾げる。
 雄介は少し返答に困ったが、直ぐに返事することが出来た。

「じゃあ、俺が未来から来た理由はなんだと思う?」
「えっ……そんなの、分からないよ」
「————何故か。それはな、変えたい過去があるからだ」
「過去……今の時間の事?」
「あぁ」

 そう。変えたい過去があるから、彼はこうして新たな因果を作り出した。
 変えたい過去がないなら、下手に過去へは来ない方がいい。

「変えたい過去の内容は、当然ながら話せないぞ」
「いいよそんなの、無理に言わなくても」
「そ、そうか」
「————じゃ、じゃあ先に帰るね。用事思い出しちゃった」
「あぁ、分かった。じゃあな」
「バイバイ!」

 朱音ははにかむと、そのまま雄介に背を向けて走り去った。
 1人残された雄介は悪友と合流し、帰路へとついた。


   ◇ ◇ ◇


「はぁ、はぁ」

 朱音は休むことなく、人気(ひとけ)のない裏通りまで走ってきた。
 そして、街灯を頼りに自分の右腕を見る。

『雄介君たら……隠してないで、全部打ち明けてくれていいのに……』

 彼女の右腕には、真っ白な腕輪が嵌っている。

『作り出された因果は、私が無へと還す。だから、安心して。雄介君』