複雑・ファジー小説
- Re: 三千世界の軌跡-Hope of glow-キャラ募集 ( No.36 )
- 日時: 2014/08/03 22:19
- 名前: キコリ ◆yy6Pd8RHXs (ID: gOBbXtG8)
そうして朱音が水晶玉を掲げ、光がより一層強みを増したときである。
唐突に一枚のトランプが飛んできて、それが水晶玉に罅を入れたのは。
「あっ————」
罅が入るのとほぼ同時に水晶玉は砕け散り、一切の光を失った。
さらに同時に朱音が何やら気が抜けたような声を上げ、目の色が元に戻った。
恐らくは、彼女に憑依していた何かが消え去ったのだろう。
途端に意識が途切れ、彼女はその場に倒れ伏す。
それを見るなりドギーはトランプが飛んできた方向を見て、狼のような唸り声を上げた。
トランプを飛ばす人物に、心当たりがあったからである。
「失礼した、麗しき美女よ。みすみす錬金王女を生かしておくほど、俺も馬鹿ではないからな」
ドギーの目線の先には、白い軍服に身を包んだ男が立っていた。
サーベルを構える仕草を見るだけでも高潔さを醸し出すその男は"ジャドウ=グレイ"と名乗った。
ドギーの目つきが変わる。
「ジャドウ。てめぇ、ここまで何をしに来た? それと、女性には手を出さないんじゃなかったのか」
宛ら野獣のように、ドギーは警戒心を露にしている。
対してジャドウは自分の力に自信があるのか、余裕そうな笑みを浮かべて彼を見ている。
ドギーはそのジャドウの態度が気に喰わないらしく、彼は生やした牙と爪の本数を増やした。
「俺が手を出したのは、その危険な水晶玉だ。全く、こんなことも分からないのかね、この脳筋は」
脳筋。その言葉がドギーを激昂させた。
彼は俊足を生かして瞬く間にジャドウに駆け寄り、爪で彼を切り裂いた。
防御は明らかに間に合わない。はずが、ジャドウはサーベルでその爪を防いでいた。
ギリギリと耳障りな音がして、爪とサーベルの接触点より火花が散っている。
ニヤリと、ジャドウがニヒルな笑みを浮かべる。
『まずい!』
ドギーが危険を察知して回避行動を取ったものの、時既に遅し。
ジャドウの強力な蹴り上げが、彼の腹部に命中した。
「かはぁっ!」
幾ら鍛えた筋肉でも、隙間や弱点は補いきれない。
一瞬で肺から全ての空気が抜けたドギー。呼吸に必死になった所為で、受身を取ることに失敗する。
そしてそのまま転がり続け、電柱に頭をぶつけて意識を失った。
「お前は弱すぎる。弱すぎるからこそ、そこの鍵を守れる存在には至らない」
ジャドウは朱音を見て、彼女の事を"鍵"と呼ぶ。
一方で突然すぎる出来事に傍観していたリンは、ジャドウが現れてからというもの硬直していた。
ジャドウの視線が、彼女に向く。彼女は一瞬身震いした。
「君は、どう思うかね?」
その問いかけと同時に、ジャドウはリンの答えを聞く前に背後を素早く振り向いた。
振り翳されるサーベル。防いだものは、一枚のカード。しかしカードは、サーベルを切断するほどの力を持っていた。
ジャドウは自分の身体を霧状にして、カードを避けながら全く別の場所に瞬間移動した。
そのカードが飛んできた方向を見据えながら。
「ほう、この俺と同じ挨拶をするのかね。実に興味深い」
「戯言を聞いている暇はない」
カードを飛ばしたのは、この裏世界に朱音が取り込まれたと聞いてやってきた"上条雄介"だった。
「フフフフ、いやはや、真に興味深い。ここはひとつ、手合わせ願おうではないか」
「上等だ、このナルシストが」
不意打ちよろしく、雄介はカードの思念体を素早く飛ばした。
追尾しない代わりに光速で飛んで行くそれは、見事ジャドウの腹に命中。
したと思われたのだが、カードが当たる寸前にジャドウは姿を晦ませていた。
代わりにカードが飛んでいった先には、無数の薔薇の花弁が散っている。
「雄介君。俺は卑怯が嫌いなのでね、悪いが卑怯を使った君には本気でいかせてもらうよ」
突然、ジャドウが増えた。
影分身の類だろう。しかし、雄介の目は誤魔化せなかった。
「戦いに卑怯もヘッタクレもねぇんだよ、このナルシストが。先手必勝だ!」
雄介はドローしたカードを四方に展開し、自分の周囲に円を描き上げた。
さらにジャドウが影分身をしている間に、彼は一切の躊躇無くカードを5枚ドローする。
ドローしたカードを重ね、彼はそれを地面に面子を打つように投げつける。
同時に比較的強力な上昇気流が起こり、ジャドウが撒いたと思われる花弁を巻き上げた。
それはジャドウの分身1つ1つに命中した。刹那、大爆発が起きる。
「むっ……」
身の危険を察知した本物のジャドウが瞬間移動の準備を始めた。
瞬間移動が始まるまで、その間の時間は瞬き程度。
しかし雄介にとっては永遠にも等しい時間であったため、それを見逃すことはなかった。
「コール!」
叫んだ雄介の言葉を合図に、円状に展開したカードから思念体が出現。
同時に全ての思念体の矛先がジャドウへと向き、一斉に彼目掛けて飛んでいった。
風に舞う薔薇の花弁と相俟って、ジャドウの周辺で先ほどよりも数倍ほど大きな大爆発が発生。
その爆音と爆風に、雄介は若干飛ばされそうになりつつも踏ん張った。とても生身の人間が生きているとは思えない。
しかしそれでも、ジャドウを止めるには至らなかったらしい。
「フフフフ……」
黒く煤けた自分の服を見て、彼が笑っていたのだ。
『こいつ、生きてる……!?』