複雑・ファジー小説
- Re: 三千世界の軌跡-Hope of glow-キャラ募集 ( No.37 )
- 日時: 2014/08/03 23:03
- 名前: キコリ ◆yy6Pd8RHXs (ID: gOBbXtG8)
その後、雄介は善戦したといえよう。
ジャドウという存在は後程、最大の敵とも呼べるほどに邪魔な存在になる。
それを知っているからこそ、彼はここでジャドウの息の根を止めようとした。
しかし、戦いにはそれ全般に共通することがあって、そのうち"地力"と"慣れ"というものがある。
雄介は明らかな経験の差から、ジャドウに対して苦戦を強いられていた。
いくら装備が高性能でも、それを扱う者が戦いに関して素人であれば、ほぼ無防備の玄人に負ける事だってある。
それとほぼ同じなのだ。
「ちっ」
「フフフフ、お前は強い。鍵を守護するに当たる人物になりそうだ。しかし、それでもまだ足りないな」
過去に一度交戦したときには、他にも仲間がいたからこそジャドウに勝つことが出来た。
しかし今は、完全なる決闘状態。雄介の負けはほぼ確実である。現に雄介は走馬灯が見えていた。
「よくここまで俺に抵抗できたものだ。その実力は認めよう。だが、お前は俺に負けるのだ」
膝をつく雄介に、サーベルが振り下ろされる。
彼は時の腕輪に手を掛けようと、右手で左の手首を握った。
だがまたしても、それに手を掛ける必要性はなかったらしい。
「ぐあっ!」
一発響いた銃声と共に、ジャドウの肩から血が滴り始めたのである。
雄介が振り返ると、目を覚ましたらしい朱音が拳銃を構えていた。
彼女はジャドウに弾丸を一発お見舞いしていたのだ。その証拠に、銃口からは硝煙の臭いが昇っている。
「大丈夫。私もついてるから」
「朱音……」
「ここは私に任せて、雄介君は私の後ろに下がってよ」
「——あぁ、任せたぜ」
雄介はフラフラと立ち上がり、朱音の背後へと回る。
それを見てジャドウは、またニヒルな笑みを浮かべた。まるで自分が勝ったかのように。
「どうしたのだ雄介、俺に怖じ気づいたか?」
「黙って、ジャドウ。雄介君を悪く言わないで」
「ふん、俺は女性には手を出さない主義でね。悪いがどいてもらおうか」
「嫌よ」
朱音は拳銃を構えなおす。
なんとしてでも、背中にいる大切な人は守らなきゃ。その衝動に駆られるがままに。
しかし当の雄介が、何やら心配そうに彼女を見ている。
その視線に気付いたのか、朱音は振り向かないまま応えた。
「雄介君。私はね、もう守られるほど弱くないの」
「……悪いことは言わん。寝言は寝てから言え」
「大丈夫だよ。大好きな人を守るためなら、この力、きっと何倍にも大きくなるよ」
朱音の目は輝いている。
『そう。それでよいのだ、朱音』
「?」
すると突然、彼女の脳裏に聞き覚えのある声が響いた。
正体が誰かは直ぐに分かった。つい先ほどまで自分を乗っ取っていた、錬金王女なる意思の塊である。
水晶玉を触ってから、彼女の心には名も無き女性の心が宿っていた。
名も無き女性の心。それは錬金術の境地"アルスマグナ"に至ったとされる、伝説の錬金術師の魂。
錬金という名の力に願の強さはつき物であり、その精神は今、朱音の強い思いに呼応してやってきた。
朱音には不思議と、その名も無き女性が誰か、分かるような気がした。
『錬金の力をそなたに託そう。勇気と願いは何よりも強い力だ。必ずや錬金は呼応してくれようぞ』
『え、えっと……どうすれば……』
『構成する物質をイメージするのだ。だが全ては等価交換。そなたの願が強いほど、力は大きくなるだろう』
その言葉を最後に、朱音の心から名も無き女性の魂は消え去った。