複雑・ファジー小説

Re: 三千世界の軌跡-Hope of glow-キャラ募集 ( No.59 )
日時: 2014/08/16 15:18
名前: キコリ ◆yy6Pd8RHXs (ID: gOBbXtG8)

 旅館についた皆だが、まだ休憩すること無く、旅館の入り口付近で集合していた。
 今の時期が丁度秋なので紅葉狩りのイベントが催されており、それに参加することになったのである。
 何となくの雰囲気とその場の流れで決まったことではあるが、誰もが少しは紅葉狩りを楽しみにしているようだ。
 うんと伸びをしながら山の空気を肺一杯に吸い込んでいるところをみると、朱音の機嫌もすっかり元に戻ったらしい。

「久し振りだなぁ〜、紅葉狩りだなんて」
「俺は初めてだがな」

 紅葉狩りをしたことがない雄介。
 彼は一度だけでも紅葉狩りを経験したかったらしく、今回のこのイベントがここで催されると知っていた朱音が見かねて、今回ここをチョイスしたのだという。

「そろそろ行こうぜー。もう時間だし」
「あ、ほんとだ」

 時計を見ていたロコが皆を急かす。
 しかし、雄介だけがその場から動かずに、先に行こうとする皆を引き止めた。
 一体どうした。そう思った皆が振り返って問うと、ニコがいないのだという。

「あっれ? さっき私の側にいたような気がするんだけど……おかしいなぁ」

 どこかから調達してきたらしいソフトクリームを舐めながら、ハニーが首を傾げた。
 ロコがそんな彼女の様子を——否、彼女が持つソフトクリームをまじまじと見ている。

「ロコ、どしたの?」
「ハニー、それどこに売ってた? 僕も欲しいんだけど」
「旅館の中のロビーだよ。でももう時間ないから、私の半分あげるっ!」
「ありがとう、ハニー」

 ハニーとロコはマイペースなのか、一緒に1つのソフトクリームを仲良く舐め始めた。
 雄介たちがその光景を見て苦笑紛れに1つ溜息をつくと、雅臣が遠くに出来ている人だかりを発見。
 彼は雄介と共に、朱音にこの場を任せて、その人だかりまで行ってみることにした。
 そうして目撃した光景は、2人の表情を一瞬でゆがめてしまうくらいに衝撃的なものであった。

「に、ニコが……何故小瓶の中に?」
「それに……あの道化師は?」

 あろうことかニコは、小さくなって小瓶の中に閉じ込められていたのである。
 その近くには、雄介が最も見覚えのある道化師のような恰好をした男"クレープ"の姿が。
 小瓶の中のニコは何かを叫んでいるようにも見えるが、何を言っているのか、当然分かる由もない。
 その異質な光景に、観光客達は騒然としていた。彼より少し距離をとったところで、ただ傍観している。

「さてと、これで貴方はもう動けませんよ。雄介たちの居場所を素直に教えるというのなら、解放してあげなくもないですがね。まあ彼らがこの私に勝てるとも思えませんがねぇ? アハハハハハハハ!」

 その光景を見た瞬間、雄介は無意識のうちに行動を取っていた。
 素早く人込みを掻き分けてカードを取り出し、1枚だけドローしてそれを無造作に投げつける。
 投げられたカードは真っ直ぐに小瓶まで飛んでいき、命中。それは粉々に砕かれた。

「何ィ?」

 クレープが顔を顰めるのと同時に、観光客は早足に散ってゆく。
 彼が何事だと思って背後を振り返ったときには、もう遅かった。

「うらああああああああ!」
「ぐほぉおおぉおおあぁぁ!?」

 雄介による渾身の蹴り上げが、彼の頬に命中したのである。
 思わぬ不意打ちに、クレープは受身を取ることもできずにその場で転ぶ。
 そこまでに至ってやっと目視できた雄介と、後から続いてやってきた雅臣、そして元の大きさに戻ったニコ。
 歯が何本か折れたのが分かったクレープは激昂した。

「人が貴方を探していれば……随分なご登場をしてくれましたねぇ! リラーックスビーム!」

 そういって彼は雄介に向き直り、指先から溢れる光線を彼へ発射する。

「そらよ」

 しかし、それが雄介に命中するはずもなく。
 あっさりとカードのバリアで防がれてしまった。

「やりますねぇ。なら、これはどうです?」

 クレープは今度は、不意をついて雅臣の方に同じビームを照射。
 雅臣は、ぼんやりしていた。雄介が避けろと忠告するも、彼は動かない。
 そうして対応が追いつかなかった雅臣は、真っ向からそれを受けてしまった。
 ————かのように思われた。

「?」

 発射されたはずの光線が、ふと消えたのである。
 どういうことだとクレープはビームの照射を繰り返し試みたが、どれも雅臣に当たる前に消えてしまう。

「僕は君の都合なんか知らない。ニコを返してもらうよ」

 そういって雅臣は、悠々とクレープの前を歩いていく。
 クレープは感情のコントロールを失ったのか、彼に殴りかかろうとする。
 接近戦には自信があるクレープなので、平凡な男子高生を相手にするくらいならどうということもない。

「仕方ありません。私の鉄拳を以って、制裁を与えるとしましょう」
「そういうのはどこか別のところでやれ」
「何ですと?」

 クレープの拳が、雅臣の後頭部へ飛ぶ。
 雄介はそれを見てクレープを攻撃しようとしたが、その前にクレープは、突然その場から消えた。

「?」

 文字通り、消え失せた。
 パッとその場から、電球の明かりが消えるように。

「ま、雅臣さん?」
「何でもないよ、雄介君。ちょっとあの目障りで鬱陶しい男を、1000キロメートルくらい先へ飛ばしただけだから」
「そ、それも雅臣さんの拒絶の力だと?」
「そうさ」

 雅臣は存在否定者であり、自分に降りかかろうとするあらゆるものを拒絶する力がある。
 クレープの光線を防いだのも、彼をこの場から別の場所へ強制的に移動させたのも、この力のお陰であるといえる。

「さあ、朱音たちのところへ戻ろう」
「そうしますか。ニコ、大丈夫か?」
「は、はい……ありがとうございます……」

 震えるニコを、雄介は暫く宥めることにした。