複雑・ファジー小説

Re: 幻影物語 ( No.1 )
日時: 2014/07/26 17:56
名前: 山猫 ◆WBRXcNtpf. (ID: gOBbXtG8)

 幻影による殺人事件が発生して数時間後。
 日が暮れて烏も鳴き出す頃、光は海沿いの堤防で夕日を眺めていた。
 ————不意に彼の背後から、コツコツと規則正しい足音が響く。

「まーた逃がしたみてぇだな、西城」

 足音のした方角から、まるでヤクザのような声が彼の鼓膜を震わせる。
 彼は振り向かずとも、その声の持ち主が誰だか知っている。彼はその声を聞くだけで不快を覚えた。
 渋々彼は振り返る。全く予想通りの人物がいる方向へと。
 そこに立っていた男はつり上がった赤い目を、光の睨むような目に向けていた。

「破壊者(ブレイカー)か。何だ、俺をおちょくりにでも来たか?」
「いいや、そうじゃねぇ。ただ、忠告はよく聞いとけよって事を伝えに来ただけ。それだけだ」
「よくそんな口が叩けたものだな。日本の警察舐めてんのか?」
「半分正解、半分外れってとこかねぇ」

 溜息混じりに軽口を叩いているその男"高柳修也"
 光は、彼が芝居かのように両手を挙げる姿が、どうも気に食わないのであった。
 丁度その頃合に、逆巻く修也の赤髪が夕日の影になり、炎が燃えているかのような影を作った。

「ま、とにかくだ。破壊者(俺ら)の言うことはよく聞いとけよ? じゃあな」
「————待て」

 光は立ち去る寸前の修也を引き止めた。
 修也はニヤリとニヒルな笑みを浮かべ、その歩みを止めてゆっくりと振り向く。

「何だァ? お前から話しかけて来るとは珍しいな。明日は雨でも降るのかよ?」
「戯言はいい。それよりも、だ」

 修也は笑っている。
 ————つくづくコイツは気に食わん。光はそう思ったが、彼は修也に言わねばならないことがある。
 否、聞かねばならないことが。

「警察(俺ら)のやり方が気に食わないなら、破壊者共(お前ら)が自分でやればいいだけの話じゃないのか?」
「————あぁ? ンだよその態度。折角手柄を立てるチャンス、与えてやってるのによぉ」

 夕日のほうを向く修也。光の言葉を聞いてから、表情は非常に険しい。

「手柄、だと?」
「そうそう手柄。お前ら只でさえ役立たずだからさぁ。ちったァ功績挙げネェと、国際的な信頼失うぜ?」
「国際情勢の"こ"の字も知らない分際で、良く言うな」
「ケッケッケ、言うじゃねぇかこの石頭」

 2人は軽蔑の意味を含め、笑いあう。
 そして一頻り笑い会った後、修也は再び踵を返した。
 凛々しい背中が夕日に照らされ、より一層大きく見える。

「まあ、お前らが危なくなったときは俺らも動くからさァ。精々期待してなよ」

 そういい残し、彼は去っていった。
 彼の言い残しに対して、光は何も言わなかった。