複雑・ファジー小説

Re: 魔法少女戦記(キコリさん、大歓迎!) ( No.61 )
日時: 2014/08/05 20:35
名前: モンブラン博士 (ID: EhAHi04g)

「やめて!」

わたしは封じ込められているガラス瓶の中から思いっきり叫ぶ。

けれど、わたしの声はあの道化師には届かない。

どんなに力を込めてガラスの壁を叩いてもひび割れさえ起きず、声を出しても届かない。

今できることは、この残虐な光景を見ていることだけ。

彼は右手で西園寺くんの髪を引っ張り彼の顔を引き寄せると、その唇を塞いだ。

「ん…っ!」

彼にとってもわたしにとっても地獄のような十数秒が過ぎ、彼は彼の唇から唇を離した。

「ウフフフ、あなたのファーストキス、奪ってしまいました♪」

彼は舌舐めずりしながら、笑みを浮かべる。

西園寺くんの顔は真っ青になり、指先が小刻みに震えている。

「警察に通報しますっ…!」

彼は鞄から素早くケータイを取り出し、警察にかけようとしたその刹
那、

「ざ〜んねん。そうはいきませんよ!」

彼が目に見えないほどのスピードで接近し、ケータイを奪うと片手でグシャッと握り潰してしまった。。

「これであなたは警察を呼べない」

ポン、と彼は西園寺くんの右肩に手を置く。

「道行く人も、だ〜れもあなたの存在に気付いていない」

言われてみて気が付いたけど、たくさん人は彼らの傍を通り過ぎているのに誰も気に掛ける様子がない。

彼はそれに怯え、逃げ出そうと振り向き走り始めるが、まるでランニングマシーンのように前に進まない。

「あなたは逃げることさえできない」

彼は彼の服を掴んで引き戻すと、恐怖のあまり、涙を浮かべる彼の耳元まで顔を近づけ、口を開いた。

「つまり…あなたに残された答えはただひとつ…永遠の絶望だけです…!アーッハハハハハハ!」



僕は彼の繰り出す精神攻撃と格闘に圧倒されていた。

彼の周辺に漂う底知れない悪のオーラが、僕に恐怖を与える。

彼の邪悪な笑みや精神攻撃の前に、僕はついに倒れ伏してしまった。

恐怖と絶望、そしてハニーさんを救い出すことができない無力さに涙が溢れる。

「あなたに嬉しいお知らせがあります」

不意に、彼がそんなことを口にしたので僕は思わず聞き耳を立てる。

彼はニヤニヤと嫌らしい笑みで続けた。

「実はですねぇ、ハニーさんはあなたのことがだ〜いすきなんですよ!」

え…っ?

僕が驚きのあまり泣きはらした目を見開いていると、彼はもう1度同じことを口にした。

「ハニーさんは、あなたのことが、だ〜いすきなんです!」

「それ、本当なの?」

僕は彼にではなく、瓶に閉じ込められている彼女に訊ねる。

彼女は何も言わず、瞳に涙をあふれさせながら、コクリと頷いた。

彼女の返事に僕が今まで抱えてきたものの正体がやっとわかった。

それは…

「ハニーさん、実は僕も君のことが好きなんだ!」

恋心だった。

僕は知らず知らずのうちに、彼女が好きになっていたんだ。

すると、それを聞いた彼はまたしても高笑いを始めた。

「何がおかしんですか!」

憤慨して訊ねると、彼は、

「どんな感情も時と共に消える。恋愛もそうです。それに恋愛はしょせんエロスなのです。あなたが彼女を好きになった理由は根本をたどればそういうお下品な理由なのです!」

「…確かにそれも少しはあるのかもしれないけど、全部そうじゃない!」

僕は立ちあがり、猛然と彼の顔面にパンチを放った。